JAXAタウンミーティング

「第90回JAXAタウンミーティング in 名古屋市科学館」(2013年2月16日開催)
会場で出された意見について



第一部「はやぶさ1号/2号が拓く深宇宙探査」 で出された意見



<ISSの次期計画について>
参加者: 20年後、30年後に有人での小惑星探査を目指すというお話を伺いましたが、時期的にISSの運用が終わるころに重なるかと思うのですけれども、ISSの次期計画というのは具体的な案があるのでしょうか。
國中: 宇宙ステーションは今から7年後、2020年以降は民間の力でもって運用させて、世界の宇宙機関はその先に進もうと考えています。宇宙ステーションは現在15カ国の協力のもと運用されていて、大変いいチーミングができ上がっています。その協力関係をさらに2020年以降も引き続き発展させる方向性です。具体的には、有人小惑星探査であるとか、有人月探査という計画です。宇宙ステーションのその先に、今申し上げたようなプログラムを、国々をもっと増やしながら活動しようと考えています。

<はやぶさ2の平面アンテナについて>
参加者: 「はやぶさ2」の平面アンテナはどうやって電波を集めるんですか。
國中: なかなか専門的な質問です。パラボラアンテナというのは、放物面をしたアンテナで、表面に電波がぶつかって反射してくると、中心部に電波が全部集中されて、電波を強めることができます。この方式は広い範囲の電波に対応出来ます。「はやぶさ」の前の「のぞみ」火星探査機では、1つのパラボラアンテナで、SとXの2波を使い分けました。「はやぶさ2」は平面アンテナという特殊なアンテナを使っています。これは別にスロットアレイアンテナという言い方をしまして、表面に小さな線状のアンテナがたくさん貼ってあります。この中をよく見ると細かい構造のパターンがあって、特定の波長にだけ波動が合うような方式です。この平面アンテナは、その1つの電波にしか反応しません。だから、XとKaの2波のためにそれぞれ専用の平面アンテナ2つを搭載しています。パラボラアンテナよりも平面アンテナのほうが軽くできるという性質があります。ただ、平面アンテナは、作るのが結構難しくて、10年の技術進歩の結果、やっと宇宙でも使えるようになったのです。水星探査機MMOにも搭載されます。

<「はやぶさ2」のサンプル採取量について>
参加者: 「はやぶさ2」は、サンプルはどれぐらい採るのが目標なのですか。
國中: 「はやぶさ2」は0.1グラムぐらい採っていきたいなと思っています。ただ、行ってみないとどんな岩盤なのかわからないので、もしも表面がやわらかかったりすると、たくさん採れるかもしれないし、非常にカチンカチンの表面だと難しいので、控えめな数字を申し上げています。もっとたくさん採っていきたいのは山々です。
参加者: 多く採れたら、僕たちが見ることは可能ですか。
國中: もちろん皆さんにもぜひとも見ていただきたいです。「はやぶさ」のサンプルについても、もしも可能であればぜひとも見ていただきたいなと思っているところです。ただ、大変小さいので、がっかりしてしまうかもしれませんが。

<イオンエンジンを研究するきっかけについて>
参加者: 國中先生が、イオンエンジンを研究するきっかけになったことは何ですか。
國中: 私が大学院に進もうと思ったときに、どういった研究をやらせてもらおうか、いろんな研究室に見学に行きました。宇宙用の推進装置を希望していました。先輩を訪ねていきましたところ、推進装置の内、化学ロケットというものはかなり研究が進んでいて、もう実用の段階に入っていて研究の対象ではないという話を聞いて大変がっかりした記憶があります。でも、その先輩いわく、「電気ロケットというものがあってね、まだ全然だめなんだ」と言われました。では、全然だめとは一体どんなものだろうと思い、その電気ロケットを研究していらっしゃった当時の栗木先生の研究室に行きましたところ、いろいろお話を伺い共感し、じゃあ、これをやってみようと思いました。研究というのは、まだ利用されていない、まだ性能が悪い、十分完成されていないから研究対象なのであって、完成されたものはもう研究の対象ではないです。だから大学院で行うべきものは、まだ実用化されていない事柄が研究対象になります。だからそういった新しい分野に挑戦し、心酔したのだと思います。たくさんの研究者は日本国内だけでなく世界中の研究者と切磋琢磨しながら研究を進めているのですが、なかなかそれをすぐさま実用化させよう、宇宙で利用しようというモチベーションや意識が薄いなと感じるようになりました。自分も研究をしながらよく思うことは、研究というのは実に楽しいことです。より細かい領域に分け入って、より深く知るという活動です。物を完成させるということと並行して、より深く知るという2つの作業があるわけです。より深く知るということは、やはり陶酔するぐらいおもしろいことです。それを余りやり過ぎると、それを使って物を実現させようという活動が少し疎かになってしまいます。この2つをうまく組み合わせないといけないのだけれども、当時、私が学生であったときの諸先輩たちの活動は、深く知るという側にエネルギーを注いでいて、イオンエンジンなり電気ロケットを使ってみてそれで事業を興そうという活動がすごい希薄だなと思いました。だから私は卒業して助手になったときに、宇宙実現を目指しました。特に周りからは電気ロケットはだめだ、役に立たないという評価をずっと受けていましたが、それは絶対間違っていると思っていましたから、マイクロ波放電式イオンエンジンを完成させるということと並行して、これを何とか使える形に仕上げてやろうと思っていました。そういう意味で、大変幸運なことに20年もかかってしまったのですけれども、たった20年で「はやぶさ」に載せて成果をあげることができて、私としてはありがたいことだと思っています。物事を極めるということと、それを実現するということの2つ両方を目指さなければいけないと、うちの学生には伝えています。

<帰還システムの研究について>
参加者: 宇宙輸送システムの開発というお話があって、JAXAの目的の1つにあったと思うのですけれども、輸送システムという話になりますと当然宇宙ステーションに大きなものを持ち上げる、宇宙ステーションで開発したものを持ち帰るのが重要だと思っているのですが、今までのJAXAの研究の中で持ち帰るほう、地表におろすことというのは「はやぶさ」以外に余り研究を知らないのですけれども、研究はどういう状態になっているのでしょうか。
國中: 帰還機についてもJAXAは脈々と活動を行っています。H-?を使ったOREXという宇宙から帰還させる技術実証実験、それから、HOPE-X往還機のための地球帰還機実験、HIFLEXなども行っています。HTV「こうのとり」という宇宙ステーションへの輸送船、貨物船を現在運航していますが、さらにこれを発展させて地球帰還させるようなカプセルの計画も準備しています。政府から認可いただいていないので、実際の開発には着手していませんが、そういった準備は進めています。日本の技術としましては、USEFが運用していますUSERSという回収カプセルも実証されており、宇宙から物を持って帰ることも日本としては堅実に技術を蓄えている状況です。さらにはこれをより発展させたいと思っているところは、JAXAの目指すところです。そういう意味で、プロモーション活動が足りないという御指摘はあるだろうと思いますが、帰還機についてもいろんな努力をしているところです。
寺田: ちょっと補足しますと、なかなか帰還技術については政府が本格的な開発を認めないという状況があって、先ほどあったHTV「こうのとり」の帰還カプセル、HTV-Rの開発に本格的に着手したいなと思っていて、その中で基礎データ、最近ではi-Ballといって「こうのとり」が帰ってくるときにどういうふうにして燃え尽きていくのかということを観測したりして、着手しているところで、これから本格的な開発が行われるかなという状況です。

<予算減による事業の絞り込みについて>
参加者: 予算の話があって、その中で抜きん出た成果を本来出していくためには、ある程度集中させる必要があると思うのですけれども、どういった領域に集中してやる必要があるとお考えですか。
國中: おっしゃるとおり今グラフで見ていただいたように、JAXAの予算が漸減しているというかなりショッキングな事実を、皆さんにもご認識をいただけたのではないかと思います。今、日本は大変厳しい状況にあります。経済や財政の状況もさることながら、震災に見舞われて、まずは復興が優先課題であるということは我々も強く認識しています。そういう意味で予算的な措置が漸減していることは、致し方ないと思います。ただ、少ない予算の中でも工夫して、我々は現在だけ注目するのではなくて、我々の活動を未来につなげていくというのを目標としています。だからこそ、今日も皆様に私のプレゼンの中では、ぜひとも若い方々にこの分野に進出していただきたいということに力点を置いて御説明したつもりで、そして、どういう方法があるのかということについても説明をしたつもりでいます。なので、今、我々はどこかに集中するということも重要ですが、今我々の持っている技術や知見をどうやって未来につないでいくか、維持していくかということも肝心なことだと思っています。これからの財政的な支援の状況に応じて、臨機応変に集中するところは集中し、維持するところは維持しながら未来に我々の活動を伝承していきたいと思っています。御指摘はごもっともなことで、JAXAでは「選択と集中」に配慮して、活動を進めています。
寺田: 少し補足しますと、宇宙基本計画というものが制定されました。こちらで政府、日本としてどういう方向に向かって宇宙開発をやっていくべきかというものがまとめられて、そこで今回は宇宙をもっと利用すべきだ、それから、産業の育成にもっと役立てるべきだ。それから、自立です。ほかの国に頼らず、自分たちの国でちゃんとシリーズを持とうということです。一方、JAXAはもちろんそういう政策もあるのですが、現場は特にいかに安くできるかとか、そういうコストダウンとかいろんな知恵を絞りながら新しい提案をしているということです。

<國中先生の教育方針について>
参加者: 國中先生の研究室の学生さんに対する教育方針、どういったものかお聞かせください。
國中: 自分の研究室には大体10名ぐらい学生がいて、スタッフも数名おります。いわゆるコンピュータを使う研究と、実験主体の研究と大きく分けられるのですが、我々のところは学生に実験やハードウェアを取り扱う研究をさせていきたいと思っています。特にイオンエンジンとか電気ロケットの技術に関することが主体です。1つの課題をグループで活動させるのではなくて、特定の課題を1人の学生に与えて、その学生が自分で考えて、自分で機材の調達だとか実験の企画であるとかを全部自分で考えて、自分で行う。それから、実験設備も1つの真空タンクをその学生に1つ貸し与えて、それを自由に使う。自分で考えて、自分で企画して、自分で結果を出す。悪いことがあったらもちろん私どももアドバイスしますけれども、自分で考えて自分で論文を書く。こういった作業を促すように指導しています。

<「はやぶさ2」のイオンエンジンの改良について>
参加者: 國中先生の研究室では次の「はやぶさ2」に向けて、イオンエンジンをどう改良していこうという研究をされているのでしょうか。
國中: 「はやぶさ」を打ち上げたのは2003年で、「はやぶさ2」は今2014年を標榜しています。10年に1回しか出番がないのです。これを技術、例えば車であっても、身の回りの家電製品であっても、10年に1台しか売れないなんてものは製品とは呼べません。イオンエンジンは地球の上では何の役にも立たない機械ですから、何としてでも宇宙に出かけなければならない。その船を探すためには日本の中だけでは足りない。だから海外に出ていって船を求めるという活動をしています。 それと並行して、この10年間、イオンエンジンの性能改善に向けて学生とともにいろんな研究をしてきました。1つ目標は「はやぶさ」で使ったイオンエンジンは、8ミリニュートンという推力レベルで、非常にわずかです。1円玉1個は1グラムで、この1グラムが重力に引っ張られる力は10ミリニュートンという数値になります。だから8ミリニュートンというのは実は1円玉1個すら上昇させられないような、そんなかすかな力なのです。「はやぶさ」のエンジンを大幅に大改良してしまうと、「はやぶさ」で培った知見、経験が全部消えてしまいます。つまり「はやぶさ」でせっかく信頼性を確保したわけですから、余り大きな改良をしないで、少しでも推力を増強させようということを目指しておりました。その成果もあって、うちの学生が頑張ってくれて、いろいろ工夫をすると8ミリニュートンを10ミリニュートン、2割方推力を増強させることに成功しました。この改良型のイオンエンジン、10ミリニュートンのイオンエンジンを4台「はやぶさ2」に投入します。さらにぜひとも海外の衛星にもこの新しいエンジンを実利用したく、販路を開拓する活動を地道に行なっています。

<工学系以外の宇宙開発への貢献について>
参加者: 私はまだ大学に入ったばかりで、詳しい研究などは何もしていないのですけれども、宇宙開発はどちらかと言うと工学系の分野、システムとか機体の開発だとか、そういう感じだと私のイメージがあるのですが、物理学の研究、天体観測のデータとか、そういう理学分野の研究がどういうふうに宇宙開発に貢献しているのかお聞きせください。
國中: 衛星は、2種類:利用衛星と科学衛星に分けられます。利用衛星というのは「だいち」であるとか、気象衛星であるとか、通信衛星であるとか、地球の我々の生活に直接貢献、寄与するような衛星群です。片や、「はやぶさ」については科学衛星の一種です。この場合の科学というのは、宇宙技術と宇宙科学両方を含めた意味の「科学」です。X線望遠鏡であるとか赤外線望遠鏡、電波望遠鏡、太陽望遠鏡、こういったものをJAXAでは打ち上げており、星の観測や太陽の観測などを行って科学データを蓄積して、宇宙天文を進めています。取ったデータはなるべく短い時間で、世界中の科学者、もちろん日本の大学の先生も、学生も含めてですけれども、科学者や研究者に公開して使ってもらっています。例えば「かぐや」という月探査衛星で撮ったデータも現在公開を始めたところです。「はやぶさ」については「はやぶさ」で取ったデータ、「はやぶさ」が回収してきた微粒子も世界中の人に配っているということは、先ほどもお話したとおりです。私は特に技術屋なので、JAXAの中には科学技術の仕事しかないみたいなトーンでお話してしまったかもしれませんが、JAXAの中にはいわゆる文系の仕事もたくさんあります。世界中が協力しながら宇宙ステーションを運用していて、その先、小惑星有人探査や月有人探査についても世界中で協力して活動を行っているというお話をしましたけれども、世界中の人たちが共同で協力して仕事をするためには、いろんな法律やルールを整合させなくてはなりません。開発した技術が誰のところに帰属するかという、知的財産権の話題もあります。こういった国際間調整は文系の方々の仕事場です。もう一つは「はやぶさ」はオーストラリアからカプセルを日本に持ってきました。これは実は「はやぶさ」を始めた頃は全くそういった意識はなかったのですけれども、指摘されてわかったことは、これは日本が輸出して、宇宙を経由して、オーストラリアへの輸出である、ということでした。オーストラリアからまた日本への再輸入であると言われて、そうなんだとビックリしました。実は輸出入というのは大変特別な手順がありまして、その中には通関とか関税とか検疫とかたくさんのルールがあるのです。これは日本のルール、オーストラリアのルールでまた違ったりするのです。こういったことを全部調整したのもJAXAの文系の仕事です。そういう意味で言うと、本日は科学技術寄りの話ばかりしてしまいましたけれども、JAXAの中には文系の仕事がたくさんあって、今日お集まりいただいた若い方にはそれぞれの所掌範囲、専門分野を極めていただければ、きっとJAXAに貢献していただくこと、広い意味で宇宙開発に寄与していただくことができるのではないかと思います。今、JAXAだけの話をしましたけれども、宇宙開発にはJAXAだけではなくて、一般企業もこういった分野には参加しておりますし、いろんな立場から宇宙活動に参画することができるはずです。
西浦: 今、國中先生から貴重な御指摘いただきました、文系の仕事が科学技術にも関係する、ということに補足いたしますと、私が教壇に立っております山口大学では、そうした人材を育成する取り組みの一環として、通常講義の「国際関係+コミュニケーション論」に加えて「リベラルアーツ」、日本語で表現すると、「国際教養」といわれているようですが、こちらも工学部、工学研究科の学生たちを中心に指導しています。世界に出て発表をする、あるいは交渉しなければならないといったときに、優れた科学技術の才能を持ちながらコミュニケーション能力も備わっていると、鬼に金棒でしょう。語学ということではなく、対話術、説得力といったところでしょうか。海外だけでなく、日本の中でのやりとりでも重要です。コミュニケーション能力を意識して磨いてもらい、世界で勝負できるグローバル人材を科学技術の世界にも役立つことができるようになったら国力もアップしますよね、ですから、いろんな側面で協力していただけるところがあると思います。

<惑星有人旅行について>
参加者: 将来的に宇宙開発をするに当たって夏休みに火星旅行みたいなこととか、夢があると思うのです。火星に行ったり月に行ったり、そういうことができるように、前段階として、開発していると、私は思っています。それで、どのように今、思っていらっしゃるのか、御意見いただきたいと思います。
國中: 惑星有人探査は世界中が目指しているところです。何で火星に行くとか、なぜ月に人が行くのか。それは小惑星という話もしましたけれども、やはり人間の活動領域の拡大だと思います。最初は行って何時間か、何日か滞在して帰ってくるだけですが、究極的には現地で住むというところを目指しているのだと思います。現実的な議論も指摘もあるかもしれませんが、やはり地球だけでは我々は住むところが狭過ぎるのです。例えば隣の国といろんな摩擦もあります。そういう意味で地球での人間の活動というのは地球表面では大分狭くなってきたと思います。新しい活動領域を開拓すること、その1つの候補として、宇宙が我々の眼前に広がっているのです。もちろん、海の底ももう1つの候補でしょう。まさに昨日、ロシアに隕石が落ちで被害が発生したというニュースが流れたばかりです。究極的に、隕石が落ちてきて恐竜絶滅するというような大事件、大参事が起こるかもしれません。そういったときに、もしも月や火星に我々の親戚がいたならば、我々のDNAを残すことができます。これこそが、究極目指すところではないかと思います。残念なことに、地球から、月や火星というのはかなり大きな隔たりがあります。ふらっと観光に行くということは、すぐ先の未来では描きにくいです。地道に技術開発をしなくてはなりませんね。ただ、宇宙の定義に依存しますが、ほぼ100キロから向こう側ぐらいが宇宙ですから、数千万円出せば本当に宇宙旅行、宇宙の入口まで、渚まで出かけていくことは具体的に考えられていて、アメリカの投資家がそういうプログラムを現在準備中です。ですから数千万円払えば、本当に宇宙に出かけていくことは夢物語ではありません。それは本当に事実です。

<「はやぶさ2」でのトラブル対策について>
参加者: 「はやぶさ」では数々の故障やトラブルで、くたくたになっていたように思うのですが、そういうトラブルを乗り越えて帰還したところが私たち、涙涙でありました。「はやぶさ2」は、故障とかトラブルの対策とか、そのあたりを御紹介ください。
國中: 「はやぶさ」ではご指摘のようにいろいろな箇所が壊れました。まずはリアクションホイールという姿勢制御に供する回転する円盤です。これにつきましては「はやぶさ」は3つ搭載していました。通常は3軸の姿勢制御には最低3つ必要です。「はやぶさ2」では3つではなくて、予備も含めて4機搭載していく計画です。さらに、通常は4つの搭載はスキュードといって、四角錐の辺に沿った向きに4つのリアクションホイールを搭載するのが一般的ですが、「はやぶさ2」ではX-Y-Z-Zという搭載方法をとります。X方向に1台、Y方向に1台、Z方向に2台搭載します。実は「はやぶさ」が地球に帰ってきたとき、3つのうちの2つのリアクションホイールが壊れて、Z軸のリアクションホイールだけが生き残りました。そのZ軸のリアクションホイールを駆使して「はやぶさ」は地球に帰ってきました。なので、その知見を最大限に使って、行きは、Z軸の1台だけを使って、小惑星までたどり着き、ほかのX-Y-Zは温存する考えでいます。現地に行って非常に精密な姿勢制御が必要になったときに初めてX-Y-Zを3台使って3軸姿勢維持を行おうと考えています。帰りについてはもしかしたらZだけ使うかもしれませんし、状況によってはX-Y-Zを使うかもしれません。そういうふうに「はやぶさ」で知見を得ましたので、「はやぶさ2」でも利用できるように新しい組み合わせ、新しい方法で計画しています。もう一つは化学推進器の燃料が漏れてしまいました。化学推進器の燃料はヒドラジンを使うのですが、これは水と同じような性質があり0℃で凍ります。ヒドラジンも凍ると膨張します。冬の水道管のように氷が膨張して水道管が割れる。そんな現象が多分「はやぶさ」で起こったものと思います。それで配管かどこかが損傷をきたして、割れて燃料が漏れたのだと考えています。ヒーターコントロールが不備で、冷やしてはいけないところが冷えてしまったのです。今度はヒーターも熱設計も完全独立、二重化しておりまして、片側が壊れても、もう片側にその影響が出ないような設計を取り込んでいます。

<「はやぶさ2」の目的地について>
参加者: 「はやぶさ2」では「1999JU3」炭素型小惑星に向かうということなのですけれども、もう1回、イトカワに行く予定はないですか。
國中: いろいろな議論があります。小惑星にまつわるいろんな興味が存在し、S型小惑星についてももっと知りたいという科学者がたくさんいるのは事実です。イトカワについては我々は既にある程度の情報を持っているのだから、その上で次の新しい科学のために専用の観測装置、別の装置を搭載して、あえて小惑星イトカワに行くという方法もないことはないと思います。ただ、私たちは探査という概念でもって新しい宇宙、新しいフロンティアに分け入りたいと思っていて、別の小惑星にぜひ行くことが優先度が高いと考えています。そういう意味でC型小惑星「1999JU3」にぜひ行きたい。実はより遠くの宇宙には、より昔の情報が残っていると考えられていて、地球の近傍にはS型小惑星がたくさんあり、その向こう側にC型小惑星というものがあります。できればより遠くまで行ける探査機をつくりたいのですけれども、今、我々が持っている技術の範囲、それから、もう一つ予算の範囲ではなかなか「はやぶさ」を超える、遠くに出かけられる探査機はつくれません。なので、たまたま地球のそばにいるC型小惑星は、非常に数が少なくて、それを逃すとさらに10年後にしかチャンスが訪れないという大変まれな小惑星です。だから、ぜひとも興味のある遠い昔の情報をとどめているであろう小惑星に「はやぶさ」の技術でたどり着きたい。だから2014年にどうしても打ち上げたい。そこに行けばより昔の情報が手に入れられる、そして水や有機物という生命の源にかかわる情報が手に入れられるかもしれないという論理で、C型小惑星を目指しているのです。