JAXAタウンミーティング

「第85回JAXAタウンミーティング in 蒲郡市生命の海科学館」(2012年11月3日開催)
会場で出された意見について



第一部「第一期水循環変動観測衛星『しずく』とは」 で出された意見



<地球の気候変動について>
参加者: 水循環変動観測衛星「しずく」の観測によって、地球が寒冷化になるのか、それとも本当に温暖化に進むのか、ある程度判別はつくのでしょうか。
中川: 現在、過去100年間と比較して地球全体の平均気温が上がっているというのは事実です。これからの予測にもよりますが、基本的には二酸化炭素など温室効果ガスがこれ以上減ることはないと思います。増えたまま温暖化に向かうのではないかと思っています。ただ、温暖化と言っても一様に暖かくなるわけではないのです。先日、アメリカに巨大なハリケーンがあんな北にあるニューヨークまで行っていました。あのような極端な気象が増えてきていて、去年の新潟、福島の豪雨のような局地的な大量の雨や台風が非常に強く来るといった現象が起こると言われています。私は気象を予測する専門家ではありませんが、いろいろな先生方からお話を伺うにつれて、だんだん災害を未然に防ぐためにも将来の気候変動を予測しないといけないなと思っています。

<環境観測衛星について>
参加者: 温暖化の原因が二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスだと思っていて、「しずく」で水を観測して、後から打ち上げる衛星でそのような気体的なものを観測すると思ったのですが、詳しくお教えください。
中川: 気候変動を観測する衛星は「しずく」だけではありません。今おっしゃられたような二酸化炭素濃度、温室効果ガス濃度を測る衛星は「いぶき」といって、直接宇宙から二酸化炭素濃度、メタン濃度を観測することができる衛星があります。そういったいろいろなデータを組み合わせて基本的には将来を予測しています。水の循環は液相、気相、固相があって、相が変わることによってエネルギーを放出したり吸収したりするわけです。そういったことで地球面上のエネルギーの循環を把握できますし、その原因となるのが二酸化炭素だというのは想定されています。それを「いぶき」で、二酸化炭素濃度がどういうふうに変化していて、どこが多くてどこが少なくなっているか、全体的に増えてきているかなどを観測できるようにしています。また、「GCOM-C」という衛星を今後打ち上げる予定ですが、植生や海の中のプランクトンといったものを観測することができ、今度は二酸化炭素をどれぐらい吸収しているかといった面からも観測ができるようになります。人工衛星は基本的には現状しか測定できないので、それらのデータを総合的に組み合せて、気候モデルを使って将来を予測するというメカニズムです。

<今後のJAXAについて>
参加者: 3段階に分けて水循環変動観測衛星「しずく」を動かすのは、これからJAXAがやることの大一番の布石のように思いますが、いかがでしょう。
中川: 大一番の布石というのは、その先にまた新たなことをやるということを言われていると思いますが、まず我々としては今から10年間を着実にやることで、先にやるものが見えてくるのではないかと思っています。これから10年、我々の環境がどういうふうに変わるかという予測の仕方もどんどん高度化されていくと思います。例えば、コンピュータで将来を予測するというのも昔は1,000kmオーダーのグリッドしか計算できませんでしたが、スーパーコンピューターができてきて、50kmとか数十kmのオーダーで計算できるようになりました。そうすると10年後になると人工衛星のデータがいっぱいたまり、計算機がさらに高性能化されて、そういった計算するモデルもさらに高性能化されると、将来をもっと正確に予測できるようになると思います。そういうときに、次にJAXAが何をやっていくかというのが見えてくるかなと思います。

<「しずく」のアンテナについて>
参加者: 「しずく」の2mのアンテナがありましたが、アンテナの材質が何かということと、水の状態をアンテナで捕まえるとなると、マイクロ波だと思いますが、どういう形でアンテナに入ってきて、どのように解析し、先ほどのシュミレータのもとになるのか。仕組みについて、簡単にお教えください。
中川: アンテナは一般に売れられている「ハニカムパネル」と言われているものです。表皮はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)でコアは普通の飛行機などで使われているアルミです。それをああいう一種のパラボラ形状にしています。基本的には受信機なので、自宅にある衛星放送のパラボラアンテナが2mになり、さらに高感度になっていると想像してもらえればと思います。周波数的にはマイクロ波と言われている波長で7ギガヘルツ帯から89ギガヘルツ帯ぐらいまでの周波数で6つのチャンネルのそれぞれのマイクロ波を受信しています。とはいっても、地上から電波を出しているわけではなくて、水分子自身の温度エネルギーで放射している微弱なマイクロ波を700kmの宇宙から受信しているのです。それぞれの周波数の強度の組み合わせで、あるものは海面水温が計測され、あるものは北極の氷が計測されます。
参加者: 氷が出している電磁波の周波数帯域とかスペクトルの分布と地上の水分が出しているスペクトルとかも全部違うわけですか。
中川: 表面が本当にかちかちに凍った氷か、少し水がある氷か、スペクトラムというか強い波長の周波数が変わるということです。グリーンランドの表面の氷が溶けているのではないかということが新聞に出ていましたが、あれも同じで冬ならかちかちになっているので、ある周波数が非常に強く出てくるけれども、表面が溶け出すと違う周波数に移るということです。

<3次元的観測について>
参加者: 表面の水の温度など3次元的な解析というのはできるのですか。
中川: この衛星のメカニズムは、地表面から出ているマイクロ波をただ宇宙で受けているだけで、宇宙から地球を見ているので、縦に積分したものしか見えませんので、結果的には2次元でしか観測ができません。3次元で見るためには、電波を出さないといけません。そういう衛星もあって、来年度打ち上げ予定の降雨レーダーというものがあるのですが、それは宇宙から電波を出して、その反射を計測し、跳ね返ってくる時間によって深さを知ることができます。そういう衛星は電波を幅広く出すことはできないので、限られた細い面積しか計測することができません。そういう3次元で計測したデータと「しずく」のように2次元で計測したデータを組み合わせて、全球での3次元的な観測をするというのが今のやり方です。

<しずくの観測データについて>
参加者: 「しずく」プロジェクトが行っている水の循環なり将来の気候変動の予測というのは大変関心のあるテーマだと思って、この先、非常に長い観測期間の息の長いプロジェクトだと思いますが、この「しずく」プロジェクトが行っていることは、日本独自のデータなのでしょうか。また、このデータは世界の共通の情報として発せられているものなのでしょうか。
中川: 1つの国でできることは限られています。それはアメリカやヨーロッパだってそうです。だから、国際的に衛星を使って気候変動、環境観測を一緒にやろうという枠組みがあるのです。そして、それぞれうちの国はこういうことをする、そちらの国はこういうことをするという要望をお互いに共有し合って、打ち上げた後はそのデータを一般に公開し、相互利用できる枠組みをつくっています。「しずく」のデータも今、インターネットで自分のメールアドレスとパスワードを登録すれば、どなたでもダウンロードできるようにしようとしています。この間、打ち上げたばかりなので来年1月から順次データを公開するのですけれども、それは世界中からそのデータを入手することができます。NASAなども自分たちの観測したデータは世界中の人がとれるようにウェブサイトをつくっていますが、そういうふうにしてお互いにデータを公開して、世界中の研究者が自分たちの研究が進められるように環境を構築しています。
西浦: 国際協調といいますか、日本の「しずく」をはじめ、ほかの衛星もそうですが、JAXAとしては、安全保障を通じて外交にも役立ち、結果、世界平和にも貢献していると確信していますので、皆様の応援、御理解がより一層、力になると思います。
中川: 「しずく」のデータというのは気象予報に非常に有効に使われるのです。特に水蒸気量というのは集中豪雨を予測するのに非常に有効で、アメリカの気象庁のようなところ、「NOAA」と言いますが、そういうところにも我々はデータを提供するという協力を結んでいて、そういったデータは世界中の気象機関にも提供できるような仕組みにしています。

<しずくの推進力について>
参加者: ロケットが取れてから「しずく」はエンジンなしで、太陽電池のみでどうやって動くのですか。
中川: 「しずく」は基本的にはオール電化の衛星です。だから、太陽電池パネルで電気を作って、それで動いています。ただ、エンジンも持っていて、本体の中に大きなタンクがあって、「ヒドラジン」と言われている燃料が使われています。それは、触媒があって、液体のタンクの燃料が宇宙に出るときに気化します。要は高温になって燃えるような感じで外に出ていきます。簡単に言えば風船を離すと飛んでいくのと同じで、中の空気が外に出て前に進みます。それと同じ原理です。電気の力だけでは前に進めないので、前に進んだり方向を変えたりするためのエンジンは積んでいて、それ以外の中の機械は全て電気で動いているということです。

<広報活動について>
参加者: 科学の専門家は分かっていて利用できるかもしれないが、一般の方は、そういうことをやっていても分からなくて、恩恵に預かっていないと思ってしまうので、もっと広報活動というか、データを公開していくべきだと思います。研究者の方は目先のことは余り言いません。10年、20年とデータをためて、それから研究成果が出るようなものは、目先のことしか考えられないような人には、結局無駄ではないかと思ってしまって、もったいないからやめろというようなことになります。データ提供を行うたびに提供していますとか、キャラクターをつくってアピールして広めるとよいと思います。
寺田: 一番感じているところでありまして、予算が減っているということは広報の予算も減っています。それでいかに予算が減った中で効果的な広報をしようかということで、あの手この手を考えて、インターネットですとか、ホームページを見やすくするとか、そういうような活動をしていて、本日のタウンミーティングも広報活動の一環です。こうやって皆様と直に話すことで、今のような御意見をいただき、もっと頑張れという声を支えにして予算要求の後ろ盾にして、迫力のある予算要求をしているところです。決して手を抜いているわけではないので、もっと頑張りたいと思います。ありがとうございます。
西浦: 隣の寺田は、広報部長は仮の姿と言うと語弊がありますが、実は、ミスター・ミチビキこと、「みちびき」のプロマネなのです(笑)。「みちびき」といえば、皆さまも使っていらっしゃるカーナビがそうですし、携帯電話などでも、GPSで居場所がわかります。先ほど中川プロマネから漁業のお話も出ました。漁も今、人工衛星が送信してくるデータを漁師さんも活用していますから、よりたくさんの魚が効率よく獲れます。飛行機の航路、船の進路、それも衛星から送られてくる情報により、我々は、安全に飛行機や船に乗れています。宇宙開発による人工衛星から得たデータにお世話にならないで生きていられるという人は、山の洞窟にこもっている仙人以外にはいないと思います。放送衛星は、我々が毎日見ているテレビもそうですし、災害時に活躍した「だいち」も、記憶に新しいところです。普段は、地球観測をしている衛星ですね。私たちは、本当にたくさんの恩恵を受けていますから、今、人工衛星が飛んでいなかったら、何もできない、というぐらいに生活、社会に浸透しています。そうした日常生活への充実やインフラ関連の貢献についても、もっとアピールしなければいけないということですね。これからも頑張りますので、皆様の応援、御支持も、よろしくお願いいたします。

<NOAAについて>
参加者: アメリカは、「NOAA」という軌道衛星で、水分量を観測していて、「しずく」と同じような情報を得ていると思います。具体的にどういうものをされているのでしょうか。
中川: 「NOAA」というのは衛星の名前でもあるし、気象機関の名前でもあります。天気予報をするためには、例えば「しずく」だと実際にある地点を見ているのは1日に1回か2回ぐらいしか地上を見ることができません。それで気象予報をするためにはさらに頻度を高めて見たいという要望があって、だからNOAA自身は、「DMSP」という衛星のことを言われているのだと思いますが、小さなマイクロ波放射計を積んでいて、それらと観測できる時間帯をずらしているのです。それでそれぞれ3時間とか4時間ごとに衛星の画像を入手して、それで気象予報をやっています。気象庁さんもそうです。そういうふうにして各国の機関がお互いにデータを提供し合うことで、同じデータでも頻度を高く見ることができるので、状態の変化がよくわかるので将来を予測しやすく、精度が上がるということになります。

<プロジェクトのマネジメントについて>
参加者: どういうところに注意してプロジェクト自体をまとめているのか教えていただければありがたいと思います。
中川: 非常に難しい質問ですけれども、やはり我々も人なので、多分、人工衛星を開発しようが車を開発しようが同じだと思うのですが、チームの人たち、例えばJAXAで「しずく」のメンバーというのは私も入れて17人ですが、それだけではなくて現実的にサポートしてくれる部署の人たちだとか、実際に製造してくれているメーカーの人たちだとか、そういう人たちを交えると100人とか200人というオーダーになってきます。そういう人たちが同じ情報を持って、コンセンサスを持って仕事をできるようにすることが非常に重要かと思います。こういうふうに使うつもりなんだけどと言ったら、そんなことは知りませんと言いながら設計している人がいるというのでは困ります。また、我々は、人工衛星だけを作っているだけではなくて、それを制御する地上システムをつくり、衛星の画像がおりてきたらそれを処理するシステムをつくっています。それを気象庁に配信するとか、そういった大きなシステムを構築するときに、それぞれの情報をいかに滞りなくスムーズに流せるようにするか、そういうことが非常に重要ではないかと思います。やはり大事なのは、人なのです。
吉川: この後、私のほうで「はやぶさ」の話をしますが、私自身は、宇宙科学研究所というところから仕事を始めていて、かかわったミッションが火星探査機「のぞみ」、「はやぶさ」、今は「はやぶさ2」、あと幾つかのミッションにかかわりました。「はやぶさ」のプロジェクトのマネジメントは当然川口淳一郎先生ですが、中川プロマネからありましたように、やはり人です。「はやぶさ」は一応工学ですが、科学の人もたくさん入ってきて非常に個性豊かな人の集団でした。そういう人をうまく束ねていくというのが非常に重要で、「はやぶさ」の場合、良かったのはとにかく世界一を目指す、世界初を目指すというところで全員の気持ちが一致していたので、そういう個性豊かな人が集まってきても、その目標が1つだったのはよかったのですけれども、それぞれの人が考えることと興味は全然違うので、そこをいかにプロマネあるいはトップに立つ人がまとめていくか、そこが一番難しいところです。
寺田: 私は、準天頂衛星初号機「みちびき」という衛星のプロジェクトマネージャーをやっていました。こちらは2010年に打ち上がって成功したことで、昨年8月から私は広報部長という慣れない仕事をしています。「みちびき」という衛星は、科学者だけでなく、役所の関係者がいっぱい開発に関わりました。文部科学省、国土交通省、経済産業省ですとか、科学者とはまた異質な人たちとつき合わなければいけませんでした。そういう人たちはこういうことをやってくださいと言うと、すぐに「できません」と言います。粘り強い交渉をして、あの手この手で何とか妥協案を見つけてやりました。「わかりました」と言ってくれたらあとは信じるだけで、全幅の信頼を置いてやってくれるということを信じて、何回も裏切られたこともありますけれども、そうやってプロジェクトをまとめてきました。ですから、共通するのは人との信頼関係というのでしょうか、そういうものがプロジェクトをまとめることではないかと思います。
西浦: プロジェクト事態をまとめるには?というご質問でしたが、私は、広報と国際マターに関する指導と助言をし、また、戦略なども考える立場としての答えになりますけれど、吉川ミッションマネージャ、中川プロマネからもございましたように、やはり、ここでも、人です。全員ではありませんけれど、非常に個性豊かで、優れた頭脳のエンジニアが多いので、技術以外のこととなると、どのように指導したらよいものか、苦労もある反面、私の知らない技術面の詳しいところは、教えて貰えるので、非常に楽しく、刺激的です。それと、中でも一部ですが、日本の、特殊な頭脳集団を、たいへん誇りにも思っています。

<衛星のアンテナについて>
参加者: 「しずく」はアンテナが1つで、1つのものを求めるようですが、昔はいろいろなアンテナがついて飛んでいたのですけれども、複数のもの同時というのはなかなか難しいのか、どういうところで使い分けているか教えていただければと思います。
中川: 「しずく」の開発当初にJAXAとして方針を立てました。できるだけ大きな衛星にたくさんのものを載せるという過去のやり方はやめて、1個か2個のセンサーにして、衛星を2トン程度、我々がいつもずっとつくってきている程度の大きさにして、できるだけ信頼性が高くてタイムリーに打ち上げられるような衛星にしようと。何でかというと、以前、何年前か忘れましたが「みどり1号」「みどり2号」というものがあって、それは非常に巨大な衛星でした。その衛星は2つとも軌道上に上がってから1年ぐらいで異常を起こして観測不能になったのです。たくさんのセンサーを積んでいたために、開発も10年ぐらいで、費用がかかって開発したものが、そういう打ち上げて1年で観測を停止してしまって、センサーが生きていたにもかかわらず、衛星のシステムのほうが故障して、電力が出なかったので、それで観測ができなくなってしまいました。そういう苦い経験があって、長期間かけてせっかくつくったものが全てだめになるというリスクは非常に大きいので、方針をチェンジして1つの中型ぐらいの衛星に1個か2個のセンサーを載せようと。5年ぐらいでタイムリーに衛星を打ち上げるということが大きな方針としてありました。そういう事情もあり、「しずく」についても失敗ができない、失敗しない衛星をつくるというほうが重要視されてきました。今のところ「しずく」は不具合が1つもなく正常に動作していますが、できるだけ過去につかった機器だとか、多少古くても性能が出るのなら、そういう使い慣れたものを使って、できるだけ壊れない成功する衛星のつくり方というものに徹したおかげで、今こういうふうにちゃんと動いています。

<しずくの運用機関と重複時期の取り扱いについて>
参加者: 「しずく」の運用期間が5年と書いてありましたが、5年たってしまったら使えなくなってしまうのですか。
中川: 設計寿命というものを一応設定しています。基本的に、電子機器などは5年たったから必ず壊れるものではないですよね。家電商品もそうだと思いますが、何年かたったら少しずつ部品が壊れていって、衛星もそれと同じです。搭載する燃料は寿命を規定するもので、5年分を積むか、10年分を積むかによって重さが変わってきます。それとベアリングやバッテリーなど、そういったものは寿命が存在します。最初に設計する前に5年飛ばすものは、5年は必ず持つように設計にしています。実際はそういった寿命があると言われているものについて試験をして確認していて、ほとんどのものは10年ぐらい持つようで、燃料タンクにも余裕があったので、10年分以上の燃料を積んでいます。よく家電を買ったら保証期間は1年ですと書いてありますが、その1年が5年だと思っていただければと思います。1年たってすぐ壊れるわけではないので、これから使えるだけ使おうと思っていますので、10年近く持つのではないかと私自身は思っています。
参加者: 「しずく」の次号機が上がったときに重なる期間がもしもあるとしたら、同じデータをとっていくのか、全然違うデータをとっていくのか、2機をどのように使い分けたりするのでしょう。
中川: 次号機は基本的には「しずく」1号機を打ち上げたものと同じ機能を少なくとも持っていなければいけません。それに技術も進むので、さらに機能を追加したり精度を上げるようにするとか工夫をして、もう少し性能や機能がよくなるよう開発しようと思っています。

<衛星用のCPUについて>
参加者: 人工衛星なのでコンピュータを積んでいると思いますが、そのコンピュータは一番新しいものですか、それとも古いものですか。ソユーズロケットは1980年代のコンピュータを使っていると聞いたことがあるのですが、それがどうなのか疑問に思いました。
中川: コンピュータの古さを決めるのはCPU(中央演算処理装置)と言われているものの世代で決まってくると思うのです。「しずく」にもコンピュータは、幾つも積まれていて、それぞれ世代があります。宇宙用のコンピュータはあまり世代交代をしません。なぜかというと、宇宙用のコンピュータは放射線に耐えなければいけなくて、放射線が当たって誤演算しないようないろんな対策を講じてあるので、長くて10年、短くて5年ぐらいの時間をかけて世代交代をしていくのです。今の最新のものは5年ぐらい前、そのころに開発された新しいCPUを積んでいるのが観測センサーです。衛星の姿勢を制御したりするコンピュータはその1世代前のもので、ただ、地上のコンピュータのように必ずしも高性能である必要はありません。機器によっては、ちょっとした計算をしたいだけのものはCPU能力は要りません。CPUは高速に処理すればするほど発熱が大きく、発熱が大きいと衛星は真空で動くので、ファンを回すことができないので全部伝導といいますか、金属にくっ付けて、そこから熱を逃がさないといけなく、余り発熱の大きいコンピュータは積むことができません。そういう意味で、それぞれの用途に応じて古くてシンプルなCPUを積んでいく機器もあるし、最先端のCPUを積んでいる機器もあります。だから必ずしも1つではなくて複数のCPUが働いているので、20年ぐらい前の世代のCPUを使っている機器もあります。

<衛星の寿命後の対応について>
参加者: 人工衛星が動かなくなってしまったら、どうするんですか。
中川: これまた難しい質問でもあります。静止衛星で通信や放送をしている静止軌道は、3万6,000km上空ですが、その軌道は非常に役に立つところで、寿命になるとその軌道を離れてくださいという規約があります。また、「しずく」のように地球から数百kmのところを回っている衛星は、今度は地球に落ちるような軌道にして、25年以内に地球に突入して燃え尽きなければいけないという規約があります。「しずく」の燃料の3分の1ぐらいは、地球に突入して燃え尽きさせるためのものになります。時折不幸なことが起こって突然衛星が壊れてしまった場合、それから、制御ができなくなってしまうとそこにずっと残っていて、みんなの邪魔になっている衛星もあります。だから、基本的には高度700kmとか800kmという非常に役に立つ軌道は、運用終了後、軌道制御して地球に落ちるような軌道に投入するのが国際的な要求で、それに適応するように設計しています。
寺田: 少し補足すると、突然死ぬととにかく邪魔になるのです。だから邪魔にならないように衛星の状態を常に監視して、ちょっとでも壊れそうだなと思ったらひやひやしながら見守って、そうなる前に手を打つというのが衛星の運用です。

<みちびきの結果と今後について>
参加者: 「みちびき」は、どれぐらい満足のいくような結果や実績だったのでしょうか。また、日本の真上を飛ぶ時間が限られているということで、これから数個打ち上げていくと思うのですが、それらについて予定などを教えてください。
寺田: 「みちびき」というのは日本版のGPS衛星で、自分の位置がどこにいるかわかる衛星です。そのために衛星の軌道、衛星が今どこを飛んでいるかというものを1~2m以内の誤差で決める必要があります。「みちびき」は、その域に達していて、GPSよりももっといい精度の信号を出せるようになっています。その結果、政府がさらに3機の衛星を追加で開発して打ち上げる予定で、「みちびき」1機だけですと日本上空を8時間ぐらいしかカバーできず、完全なシステムになっていないので、4機体制で24時間必ず1機が、ほぼ天頂である準天頂にあるようにする予定です。予定としては2010年代の後半ということですので、2018年とか2019年には4機の衛星がそろうのではないかと思います。