JAXAタウンミーティング

「第49回JAXAタウンミーティング in 市川」(平成22年8月14日開催)
会場で出された意見について



第二部「JAXAの有人宇宙活動-国際宇宙ステーション『きぼう』日本実験棟-」で出された意見



<データ中継技術衛星「こだま」の次期計画について>
参加者:ISS(国際宇宙ステーション)とデータ中継を行っているデータ中継技術衛星の「こだま」の次期開発計画がまだ出ていませんが、ISSの利用にあわせて次期計画が考えられているのでしょうか。
横山:今、「こだま」は陸域観測技術衛星「だいち」と共用しており、「だいち」の後継機も作ろうとしています。その時期にあわせて中継衛星が必要となりますが、中継衛星そのものは技術的には民間でもできるものなので衛星を自分で作るよりも、通信サービスを調達する考え方で経費の適正化を図っている状況です。
参加者:「こだま」の次期計画は、ほかの衛星に合わせて一緒に行うとのことですか。
横山:「こだま」自身にJAXA自身が行うべき開発事項があるわけではありません。民間の通信業者から静止衛星の通信サービスをパイプのごとく買ってくる選択肢もあるということです。

<ISSで行われている実験について>
参加者:ISSで多くの実験が行われていると思いますが、実験はいくつくらい行い、具体的にどのような実験を行っているのでしょうか。
横山:与圧空間の実験に関しては2008年の夏くらいから、曝露実験については昨年の夏から始めており、テーマ数は最初の2年間で100テーマくらい行っています。これらの実験は、物理、流体力学的な実験と、もう一つはライフサイエンスという植物や小動物、メダカなどで実験をしています。例えば昨年9月から11月にかけては、シロイヌナズナが種から花が咲いて実になって再び種になる1サイクルが60日の実験を行いました。この実験により、植物の生命体としてのライフサイクルをすべて観察できました。JAXAはこれらの実験を行う技術開発機関ですが、その実験成果を科学者の方々、テーマを提案した方々へ渡し、1年程度でいろいろな科学的知見を出してもらうことを一例として行っています。また、宇宙に行くと骨が弱くなることがありますが、骨粗鬆症に効く薬が宇宙でどのように効果があるかという実験を何人かの宇宙飛行士で行いました。さらに、タンパク質の結晶を作る実験は、「きぼう」を上げる前からロシア実験棟でも行っています。いろいろなタンパク質の結晶を作り構造解析しますが、地上で重力影響があるものと重力影響のないものでは、重力影響のないものがやはりきれいな結晶ができるということで、きれいな結晶を作ると、地上で解析する装置、神戸にありますが、それで解析するともっと細かく水素原子まで見ることができます。得られた知見をもとにタンパク質を量産すること自体は地上でできるため、宇宙では分析するための結晶を作ることになります。
参加者:例えばいくつくらいのテーマがあり、どういう実験をし、どういう結果が出たという内容を子供たちに簡単明瞭に知らせたい場合に用いるパンフレット等はあるのでしょうか。
佐々木:本格的な宇宙実験の結果は、研究者が優先的に研究した結果が何ヶ月、何年か経ってから見ることができる状況ですが、広報的な目的では、子どもたちに宇宙空間と地上はどのように違うのか、無重力はどういうものかをわかりやすく紹介するなどしたビデオを作っています。これらは、JAXAのホームページにコーナーがあるので、是非、見ていただければと思います。また、学校教育でも使えるように、JAXAに宇宙教育センターという部署がありますが、そこを通じて小学校や中学校の理科の授業で使えるような教材作りの手伝いを行っています。

<有人で行う実験の意義について>
参加者:実験については、無人で行える実験も多くあると思いますし、ISSや人体にとって危険な実験は行えないと思いますが、そのような危険な実験も無人であれば行えると思います。ISSや有人で行う実験の意義は何かあるのでしょうか。
横山:与圧の実験に関しては、人間が介在することによっていろいろな判断を取り入りることができます。
また、曝露の実験は、例えば地球観測衛星では観測センサが重要なのですが、センサだけを持って上がり試験ができます。確実に使えるものであったら独立した人工衛星で打ち上げたほうが独自に運用できますし軌道も選べます。こうしたセンサ開発にも曝露部が使えるということで、我々が最初の段階で想定しなかったような使い方が出始めています。確かに人間が介在すると怪我をしてはいけないとか、特に生物実験に関してはバイオ(生物的)汚染がおきないよう相当慎重な設備を作って行っています。しかし、このような実験は普通の人工衛星では行えない実験で、有人で行う意義はあると考えています。

<イプシロンロケットについて>
参加者:事業仕分けで固体燃料ロケットの事業が中止になったと思いますが、最近、小型衛星向けの構想が持ち上がったというニュースを聞きました。現在のH-IIA・H-IIBロケットと現在構想中のロケットの違いについて教えてください。
横山:昨年の事業仕分けの対象はGXロケットで、マーケット性や経費の問題で中止になったと思います。現在構想中のロケットは、イプシロンロケットだと思いますが、JAXAになる前の宇宙科学研究所が使用していたM-5ロケットが原型のロケットです。このロケットの場合、比較的少ない打ち上げ費で小さめの科学衛星を打ち上げることができ、その開発経費も抑えることができます。経費を抑えることができるのは、既に技術があるためです。小型のロケットと大型のH-IIA及びH-IIBロケットのラインナップで、世界的にも費用で十分対抗できるとの判断がされたと思います。
参加者:具体的にそのロケットでどのような衛星を打上げるのでしょうか。
横山:最初に乗せるのは試験機だと思いますが、数百kg単位の小さめの科学衛星を想定していると思います。一番大きいH-IIBロケットが打ち上げるHTV自身が十何tあることを考えると、相当な大きさの差があります。

<今後のJAXAの有人宇宙計画について>
参加者:今後のJAXAの宇宙計画について、有人か無人かという視点で質問をしたいと思います。スペースシャトルを基盤とする有人宇宙計画は今から30年以上の話で、その当時は技術がまだ未熟でアナログが中心で、人手による有人宇宙計画は理解できます。しかし、30年経った現在、通信情報処理技術の発展や各種センサを基盤とするロボットの出現など、多くが人手から機械にとって代われるのではないかと素人目から見て思えます。以下が私の考えです。
有人の問題点として、1つ目は、コストの問題で、宇宙飛行士が宇宙に行く場合、必ず生きて地上に戻さなくてはならないという大前提があります。無人ならば目的に応じて宇宙に衛星を打上げてデータを地球に送るだけでもよいし、片道ならコストも安くなると思いますが、有人の場合、生命維持装置や酸素を発生させCO2を吸収するなど、大がかりになります。無人ならば探査、実験室など目的を絞ることにより小型のローコストロケットも対応可能で、有用性があると考えます。
2つ目は、打ち上げ時の危機管理の事故や真空、放射線の存在する宇宙空間へ人を送るリスクを考えた際、万一、人命に関わる事故が発生した場合、原因の究明、対策で長期間の中断を余儀なくされ計画が大幅に狂ってしまうなど、有人にはリスクがあるのではないかと考えます。
3つ目は、宇宙飛行士としての訓練を10年も行うのであればロボット、機械でできないかと考えます。
4つ目は現在、日本の有人ロケットは実績がなく、アメリカやロシアに頼っている状況で、今後のアメリカやロシアの政治の動向によっては、日本の計画は左右されると思います。そのようなことを考えると、JAXAは限られた予算の中で有人宇宙計画より、日本が持つ世界でトップレベルの情報通信、情報処理や、ロボットなどの技術を駆使し、無人による宇宙開発で世界をリードすることに力を注いだ方がよいのではと考えます。
有人宇宙計画を行う必要性について聞かせてください。
横山:突き詰めれば有人とロボットミッションは共存すべきと思います。そのため、ロボットでできることを人間が行う必要はないと思いますし、今後はこの観点でミッションが立てられていくと思います。もう一つ、人は宇宙に行くかという論理があります。その論理の中で、アメリカはフロンティアは自分達がリーダーで行うとはっきり言っていて、非常に強い意思があります。一方、中国は、我々は人を宇宙に上げられる国だという、国威発揚という1つの非常に強い意思を持っています。日本はその間にいて、どっちつかずです。それから、有人を行うには非常にお金がかかります。そのため、見返りは何かという議論をきちんと行わなければなりません。日本では、技術が投資するに見合うかどうかを答えなければいけないのですが、例えば今、ISSの現状を見ると、6人体制になったときにいかに効率的に行うかといったら、リサイクルを行わなければなりません。ご存知のように使用した水やおしっこも精製して飲めるようにする技術が必要になります。それらの技術を持つべきか、持つべきでないか、あるいはアメリカに依存すべきかどうかは考えるところです。実際、我々は国際プログラムの中にいて、アメリカが作った水再生装置の性能や彼らがいかに苦労しているかは見ていますが、はっきり言って日本の地上の水の精製技術は目をみはるものがあり、我々はもっとうまくできると思っています。ただ、宇宙に持っていく技術開発は、どこかの国で行わなければならず、いろいろ予算を考える上で今後議論され、その中で一定の理解が得られるのではと期待しています。それは水のみならず、空気も再生しなければいけませんし、場合によっては食料生産もしなければなりません。しかし、それらを日本がすべて行うには、お金はないため国際協力プログラムでやったほうがよいのではないか、その分担をどう決めていくかを今、真剣に議論しているところです。また、外国に頼ると梯子を外されるという議論がありますが、20年以上このプログラムを行っている中で参加国の間では戦争をしたことがないのも1つの事実です。お互い依存するのであれば、仲良くしなければならないし、お互い尊重しながら行う枠組みはできていると思います。

<宇宙で行うスポーツについて>
参加者:スポーツと宇宙をつなぐものと言えば、夢になるかと思っています。予算的には難しいということは重々承知していますが、今後宇宙で、例えばスポーツという観点から何か試すことができることがあれば教えてください。
横山:無重力なので地上とは少し違ったスポーツを考えないといけないと思います。ニーズとしては重力環境にいない宇宙飛行士を重力にさらすのは非常に意味があります。昨年、若田宇宙飛行士が宇宙へ行った時からスクワットを行う装置を健康管理器具として打上げました。その結果、地球に帰ってきた時、最悪の場合、地上に降りて一瞬立てない状況が起きるのですが、若田宇宙飛行士、野口宇宙飛行士ともその状況はありませんでした。そういう意味で、重力負荷をかける運動そのものは非常に役に立つと思います。