JAXAタウンミーティング

「第47回JAXAタウンミーティング」 in 札幌(平成22年7月10日開催)
会場で出された意見について



「国際宇宙ステーション『きぼう』日本実験棟完成への道」及び「STS-131ミッションについて」で出された意見



<HTV(宇宙ステーション補給機)について>
参加者: HTVで与圧されている部分は、生き物を運ぶことができると思いますが、何かしらの手立てをすれば、人間を送ることも可能なのでしょうか。
長谷川: 可能です。もともとHTVの与圧部分は「きぼう」の与圧の設計を利用したものです。ただ、NASAが中心となって国際的に決めた合意は、人間が入って打ち上げる場合、安全基準はもう少し厳しいです。空気循環が必要だったり、炭酸ガスが出たときには除去しなければならず、それらに対応する機能、生命維持装置が必要ですが、今のHTV与圧部分は空気を循環していません。大気と同じものを入れ、4日間から7日間までもたせるようにしているため、人間を送る場合は、生命維持装置を付けないといけない状態です。
参加者: 手立てをすれば人間が行ける可能性はあるわけですね。また、その検討はしていますか。
長谷川: 手立てをすれば技術的には可能ですが、問題は予算です。人間が行くには、絶対に殺してはいけません。故障が1つ、2つあっても、その生命を維持しなければならないことを担保しないといけません。そのためには試験を繰り返した上で上げることになるので、人間を上げるには、試験を繰り返し安全が確保できた上での話になると思います。

<予算について(その1)>
参加者: 予算に関して聞きたいのですが、今のニュースなどを見ていると事業仕分け等で科学系の予算が削られている状況にありますが、今後、予算を獲得していく上で何か作戦というか、例えば特許収入のようなもので国の予算だけに頼るのではなく、自ら自給自足で研究や実験などを行うことを考えているのでしょうか。
長谷川: 予算の状況はすごく厳しいです。私たちとしては、とにかく宇宙をここまで引っ張ってきましたし、航空も行っていますが、資金がないととても新しいことはできません。既存でやってきたものを維持することで精一杯です。理事長あるいは文部科学省も含め予算を増やしてほしいと行動しています。今回の「はやぶさ」も含め「きぼう」もHTVも宇宙飛行士も地上もそれなりの技術力を獲得し、それを維持したいと思っています。かつ日本が世界の中でトップレベルを維持することが新しい産業へのスピンオフになり、私たちの将来の技術的な引き上げにもなると話はしていますが、残念ながらご存じのとおり、予算は本当に厳しいです。
ただ、全部税金でやるのは自助努力が足らないだろうということで、特許は出しています。どんどん出しなさいというのが国からのオーダーなので出しています。しかし、それがすぐにお金として跳ね返ってくるのは、すごく少ないです。また、「だいち」のような地球観測衛星のデータに関しても有償利用のものがあります。さらに「きぼう」の中での実験でタンパク質結晶の成長の話や細胞培養の話は、実は公募し有償利用で選び、製薬メーカーさんなどがお金を払って使っていただいています。しかし、それはほんのわずかしかなりません。
もともとJAXAは研究開発団体なので、稼いで何ぼという団体ではありません。次の10年後、20年後の技術開発研究を行うことによって我々が二流国、三流国にならないようにしようとしているわけなので、当然そこに対する資金の手を打っていかないといけません。そこは国が本来すべき話ですが、努力はしています。特許もそうですし、データを売ることもやっていますし、もっと広げようと努力しています。
しかし、あまり過度な商売を始めると、JAXAは一体どのような機関なのか、研究開発をしているのか、それとも広告宣伝収入を得るためにやっているのかといった意見も出てくるので、そこはバランスを取りながらやっていきたいと考えています。

<「きぼう」の中の音について>
参加者: 「きぼう」の中は、音は全然しないのですか。
山崎: 国際宇宙ステーション(ISS)の中は、常時空気を循環しているので、空気のファンの音や冷却水も回しているので、ポンプの音がどうしても残ります。しかし、「きぼう」の中は、防音措置がすごくよく取られています。何度も設計変更や改良を重ね、ほかのモジュールと比べても一番静かで快適です。私も「きぼう」の中で寝ましたが、やはりいろいろなモジュールを回ってみた中で一番快適だったと思います。

<洗髪について>
参加者: 山崎宇宙飛行士は、髪が長かったみたいですが洗髪はどうしていたのですか。
山崎: 洗髪やお風呂は、水が飛び散ってしまうのでシャワーなどを使うことはできません。タオルを水で濡らし、そこに石けんをつけて体や髪の毛を拭きます。あと今は病院でも使われていますが、水の必要ないシャンプーを使いタオルで拭き取っていました。

<有人宇宙飛行の考えについて>
参加者: 月に向かって国際協力で行くという考えがあったと思いますが、実際に宇宙に人を送る技術という点では、スペースシャトルが引退すると、ロシアと中国以外持っていないことになると思います。
実際に多国籍で月に人を乗せ、そこで活用する技術を得る方が優先度が高いと考えられているか、もしくは、予算の話は別として、実際に日本が自力で人間を今のISSやほかの所まで送って戻す技術を獲得する方が技術的な広がりの面で優先度が高いと考えているか、いかがでしょうか。
長谷川: まず、日本の次の技術が何かということですが、今、HTVで幸いに1年に一回、ISSに国際輸送機として上げることはでき、物資を船内に運んだり、船外にロボットアームで運ぶことが国際的に認知されるようになりました。次の日本のポジションは、国際的に米露が持っている技術に並ぶ、ないしそれに一部でも打ち勝ちたいと考えており、それによって実は外交上の位置づけが変わります。HTVを打ち上げたことは、みんなが認めてくれています。
次はHTVがきちんと帰ってくる、帰せないと意味がないので、ピンポイントで降ろしたいというのが私たちの希望です。それがまず優先順位の1番に技術的にしようと考えていることです。あとはお金があればおそらくできるであろうというくらいまでの技術検討が進みました。その技術的な内容はソユーズの経験もありますし、スペースシャトルの経験もありますし、アポロのこともだいぶわかったので、あとは日本流にそれをうまくアレンジし、かつ最先端の技術を日本が開発し、やっていけるかだと考えます。
2つ目は、長期間滞在の技術が、実験棟では世界レベルになりましたが、居住の技術はまだ持っていません。酸素を発生させ、窒素を入れて、酸素分圧をやって、1気圧で回すことで炭酸ガスやいろいろな廃棄物が出る、それを炭酸ガスに吸着させて、戻してまた回すという一種の究極のエコをやる技術はロシアしかまだ持っていません。今、アメリカがようやく追い付いてやろうとしていますが、実は故障が結構起きます。あのアメリカでさえも難しいです。長期間の技術はアメリカは持っていません。短期間は当然スペースシャトルやアポロをやっていますが、リサイクル技術は特段難しい技術で、その技術を持っているのはロシアだけです。中国も持っていません。中国は、ロシアと実は一時期提携しロシアの技術を導入しました。ある時期になりロシアと中国の関係が悪くなったため、ロシアがやめました。中国は自分のところで増強させながら、最先端のIT技術や電子技術を取り入れたため、今、「神舟(しんしゅう)」というロシアのソユーズに似たものは、実はレベル的にはかなりハイテクです。ロシアが弱いのは情報通信産業です。中国は情報通信産業をどんどん取り入れています。直接話すことはできませんが、話によるとソユーズを凌駕しているかもしれないくらいのレベルだそうです。ただ、長期間ではありません。あくまでも短期間です。
ヨーロッパもカナダも与圧で長期間滞在をやりたいと考えています。その技術を持つことによって何の意味があるかというと、そのレベルまで持っている豊かな技術力と経済力がある国が存在することは、ないがしろにできないと周辺諸国及び世界が思うわけです。実際は宇宙で交渉するわけではなく、いろいろな経済の問題で交渉したり、漁業問題や農林業、国連分担金などにも実は絡んでおり、そういう中での技術力として見せるそうです。そのためには酸素発生措置と二酸化炭素吸着リサイクル技術を持っていないと、月に行くときにみんなで一緒に行けばよい、買ってくれればよいではないかと考えますが、これは国家機密ですので、だれも売りません。
今のスペースシャトルの技術は、幸いに山崎宇宙飛行士や若田宇宙飛行士などが搭乗していますが、技術的内容は一切我々には教えてもらっていませんし、彼らは国家機密なので教えません。ソユーズも国家機密ですから一切教えません。操作は教えてくれますが、ほかのものに転用しないという条件で訓練をしています。それを盗んだりしたら、実は国家的な問題になってしまう状況があり、機微に関わる国家技術は買えません。

<スペースシャトルとソユーズの違いについて>
参加者: 山崎宇宙飛行士などはスペースシャトルが引退すると、今度はソユーズに乗っていく以外に宇宙へ行く手段がないと思いますが、野口宇宙飛行士が両方乗っているとのことで、スペースシャトルの方が楽だった、もしくはソユーズの方が楽だったという話を少し教えていただければありがたいです。
山崎: 私が実際に搭乗したのはスペースシャトルでしたが、ソユーズの訓練も星の町で行ってきました。それぞれに特徴があり、どちらがよいということはないと思います。乗り心地ではスペースシャトルが打上げ、帰還するときにかかる加速度が最大約3Gに対し、ソユーズだと約4~5Gかかるので、若干体への負担は大きいと思います。しかし、ソユーズは安定した技術を持っており、この39年間無事故です。
また、例えばスペースシャトルは当時の最先端を使ってここまできています。エンジンにしても液体水素、液体酸素を使った高性能なエンジンを3つ束ねて飛んでいます。それに対し、ソユーズはエンジンを20基くらい束ねているため、1つ壊れてもミッションは達成できます。一つ一つは古い技術かもしれないですが、それを束ねることによって安定した技術を作っています。それぞれ特徴のある機体で、どちらもよい機体だと思います。

<ISS内で発生した事故の対策について>
参加者: 化学だと爆発事故などが起きる実験をどうしても行わなければならないことがありますが、ISSで実験中の事故についての対策はどのように取っているのですか。
長谷川: ISSの中で要求されているのは、安全の担保です。燃えてはいけない、ガスが出てはいけない、においが出てはいけない、この3つを守らなければなりません。つまり、燃えてはいけないということは、爆発してもいけないし、噴火があってもいけません。このような物質は乗せないし、乗せるためには防護策を2つ以上用意することになっています。
山崎: ISSの中では、安全は非常に頑丈になっており、1つ壊れても運用が継続できるようになっています。かつ2つ壊れてもISS自体、人へ危害を与えないように安全審査をかけます。そのため、何か爆発したという実験があったとしても、必ず隔離され、その隔離している容器が2個壊れても危害を与えないような形で綿密に設計をしています。

<JAXAの広報について>
参加者: 広報についてお聞きします。例えば山崎宇宙飛行士がテレビの取材を受けたり、ツイッターに野口宇宙飛行士やJAXAの公式のアカウントがありますが、先日の「はやぶさ」の着陸の際は、残念ながらテレビも含めどこも生中継をしませんでした。広報部として、例えばNASAはNASATVをやっていると思いますが、そのような活動は今後行っていくのでしょうか。
佐々木: JAXAはNASAに比べ当然、予算規模も含め小さいため、いつも24時間365日放送はできませんが、その中でも工夫をし、予算を何とか捻出して、例えば種子島宇宙センターからのロケット打上げの時や宇宙飛行士の打上げ時・帰還時、シャトルのミッション中など、イベントの時はJAXA放送をやっています。JAXA放送は、インターネット経由で皆さんに見ていただくことができるようになっています。こうした工夫は行っているところです。
あと新聞や雑誌、番組などの取材も、我々は是非JAXAの活動を皆さんに理解していただきたいため調整しながら協力しているところです。
今回の「はやぶさ」については、オーストラリアの砂漠ではどうしてもインフラの環境がよくありませんでした。メディアの方にも説明をし、自力でやるところはありますかと話をしたところ、本当にカプセルが帰ってくるかどうかもわからない中で経費をかけてやるのは放送局・新聞社としてはといった意見もありました。結果的には、第三のメディアと言われるネット中継が今回は力を発揮したのかなと思っています。

<宇宙へ行き感じたこと>
参加者: 宇宙飛行士は科学者なので非常に理論的な方が多いと思っています。宇宙飛行を実際に行った宇宙飛行士が帰還して、宗教的な形で動いている方が結構いますが、やはり宇宙は宗教的なものを何か招き寄せるような要素があるのでしょうか。
山崎: 確かに宇宙、特にアポロの時代の宇宙飛行士は月まで行き、ぽっかり浮かぶ地球を遠くから見た人たちの中には宗教家に転じた人も多いと聞いています。私も宇宙に行って感じたのは、やはり地球が物凄く美しいと思いました。
私たち人間は、普段使っている機能がDNAの中の5~10%と言われており、残りの機能は使われていない部分も多いそうです。向井宇宙飛行士が植物実験でキュウリの芽を持って行った時、通常は、キュウリの芽の下にペグと呼ばれる膨らみができるそうですが、無重力だと下ではなく、あらゆるところに出たそうです。重力があることで逆に抑えられている機能があり、無重力という新しい環境になると、その機能がいろいろな働きを持ってくるというデータも徐々に出されているので、私たち人間は自分たちで気づいている以上に、結構ポテンシャルがあるのではという印象をもちました。私は2週間のミッションで忙しかったため、宗教家までは感じる期間はありませんでしたが、地球の美しさと人間の持っているポテンシャルの高さを感じました。

<宇宙で体調を崩した際の対応について>
参加者: 宇宙に行ったら風邪をひかないのでしょうか。また骨折した際など医者はいるのでしょうか。
山崎: 今回、私たちは2週間で幸い誰も風邪を引かなかったです。しかし、野口宇宙飛行士など長期滞在を行っている際は、頭痛や風邪をひくことも時々あると聞いています。
ISSの中には救命キットがあり、胃薬や頭痛薬、風邪薬など一通りの薬はそろっています。また、地上に医者が待機し通信を行いながらアドバイスを受け対処しています。
万が一、本当にひどい風邪や病気、緊急を要する場合には、ロシアのソユーズが救命ボートの役割もするので、地球にすぐ戻る体制も整っています。

<打上げ時の感覚について>
参加者: 4Gがかかる宇宙船に乗って飛び出すときの感覚は、想像できないものがあると思いますが、どのような気持ちでしょうか。
山崎: 打上げ時の感覚ですが、振動が伝わってきます。いよいよ本当に宇宙に行くのだというわくわくと同時に8分30秒しかないので、その間に機体の状態をモニターしつつ神経を集中している間に8分30秒経ってしまったという感じです。

<宇宙から見た星等について>
参加者: 私たちは地上から星を見ていますが、宇宙空間で見た星や月はどのような感じなのでしょうか。
山崎: 宇宙から見る星や月ですが、空気を介さないで見るため瞬きません。天の川も星も月もすごくきれいに見えましたが、地上で見るよりも瞬かないで澄んだ状態で見えました。

<ロボットアームの操作とゲームとの関係について>
参加者: ロボットアームを操作するということで、面白そうな感じがしましたが、子どもたちにはゲームばかりしないで勉強をしなさいと言いますが、山崎さんはゲームなどは得意でしょうか。
山崎: ロボットアームとゲームですが、私もUFOキャッチャーなどゲームは好きです。それが通じるかというと難しいですが、ロボットアームで難しいのが直接見ることができないため宇宙船の外に取り付けたカメラの画像を見ます。しかも、カメラの画像も1台で全部を見るカメラはなかなかないため幾つかの部分を映し出したカメラ5台くらいを見ながら三次元的に頭の中で判断をし、ロボットアームがこういう状態だと判断しています。そういう意味ではビデオゲームと案外近いところがあるかもしれません。

<地上との時間差について>
参加者: 地上からの遠隔操作という話がありましたが、地上から操作する時間差はあるのでしょうか。
山崎: 時間差ですが、通信でも若干1秒速くらい間があるかなというときもありますが、気になる範囲ではありません。しかし、これから月、火星に行くと、通信が行って戻ってくるまでに月だと数秒から10秒近く、火星まで行くと約20分かかかることから、遠くに行くと時間差が無視できないのではないかと思います。

<予算について(その2)>
参加者: 予算の話がありましたが、私たちにできることはあるでしょうか。
長谷川: 予算の応援をしていただくとありがたいと思います。具体的には、例えば新聞の読者の投書でメッセージを出していただくとか、ブログやパブリック・コメントに応援のメッセージを送っていただくなど、できるだけ発信していただくとありがたいです。賛成の方は沈黙した8割の方なので、是非とも発言していただけたら助かります。

<宇宙に興味を持った理由について>
参加者: 山崎さんはなぜ宇宙飛行士になりたいと思ったかということと、いつから思ったかということを教えてください。
山崎: 宇宙飛行士になろうと思うよりも、まず宇宙に興味を持ったのが、幼稚園から小学校低学年のときに札幌市に住んでいたときです。星がとてもきれいだったのに感動し、「星を見る会」の望遠鏡で見た月のクレーターが迫るくらいに迫力があってきれいだったことを覚えています。

<宇宙と地上での血中濃度の差について>
参加者: 宇宙と地上で血中濃度に差があるのでしょうか。
山崎: 私は今回、宇宙での血中濃度は測っていないのでデータとしてはわかりません。しかし、宇宙に行くと人間の体はいろいろと変化が起きます。例えば宇宙に行くと免疫機能が少し弱まると言われています。医学的に人間の体がどのように影響を受けるかは、まさにこれからの課題だと思いますし、そのような実験もしていきたいと思います。

<JAXAが描く未来像について>
参加者: 各国が宇宙に行くことに対しいろいろな技術をトップシークレットにしているとのことでした。日本も有人でロケットを飛ばしたいということですが、世界中が宇宙に行くということに対して、10年、20年の未来ではなく、その先に何を思い描いて人類は宇宙に行こうと思っているのか、JAXAではどのような未来像を描いているのか教えてください。
山崎: 人が宇宙に行くことは、私が今回思ったのが、ISSはかなり極限状態、過酷な宇宙の中で人が生活し、居住し、実験をする環境を整えた場所であることです。そのためには生命維持の技術、いろいろなものをリサイクルする技術、例えば今は尿をリサイクルして飲んでいますし、空気も循環して二酸化炭素を吸収して酸素を発生させています。ISSを維持する技術が、地球上でこれから生活して存続していくための技術につながるのではないかと感じました。
1つは宇宙にフロンティアを拡大することもありますが、それによってより地球の生活に還元できるようなものが大きいのではないかと私自身は思いました。
長谷川: 人間が今みたいにフロンティアで行くのは、日本的な考え方だとあまりあいません。アメリカやヨーロッパは、人間が外に出ていくのはそんなに違和感がないそうですが、日本はどちらかというと農耕民族の関係があるため、地上にいてなぜわざわざ宇宙に行く必要があるのかといった話になるので、そこは十分踏まえた上でやることにしています。
なぜ日本が有人宇宙をやるかということは、科学的な意味と技術的なレベルアップ、かつ、産業への波及、それと基本的に宇宙に行くことは、地上の生活を豊かにすること、これが私たちJAXAの考え方です。
そのためには技術的に獲得した上で安全を担保する必要があります。2つ故障しても安全で守れるという宇宙の思想は、地上でいろいろな面で生きています。品質保証、安全の担保の話を踏まえた上で、一番重要なのは、日本がトップレベルで技術的に維持することにより、実は産業へのプラントからITから、いろいろな面で参加している企業そのものが別のところで応用し、かつ、それを一般の家庭の中に持っていくという形にしています。
気象衛星「ひまわり」は皆さんおわかりにならないかもしれませんが、私が入ったときは「ひまわり」1号の開発や運用をやっていました。今、天気予報は「ひまわり」があって当たり前です。「ひまわり」はアジア地区全部で使っています。それも税金なのでただで使っています。「ひまわり」が気象変動及び台風の予測まで一切やっています。

<宇宙に興味を持つ子供を育てるためには>
参加者: 子どもたちに宇宙飛行士が宇宙でやっている実験を見せたりすると、とても興味を持って見てくれて、少しずつ宇宙が大好きな子どもたちを自分としては育てていきたいと思っています。しかし、どのような関わり方をしていいかわからない点もあるので教えてください。
佐々木: JAXAには、宇宙教育センターという組織があり、青少年を対象としたアウトリーチ活動、広報普及活動をやっています。ここでは主に小学校や中学校の特に学校教育と連携して学校教育の中で使ってもらえる宇宙を素材にした教材を一緒になって作っていく取組みを行っています。
また、子どもたちを例えば夏休みや春休みにコズミックカレッジといった形で集中的に一緒にみんなでグループワークを行ったり、JAXAの科学者や技術者などいろいろな人と話をしながら興味を深めていってもらう企画もやっています。
もう一つの取組みとしては、こうした札幌市青少年科学館のような全国の科学館とも多くの連携をしています。我々の方からいろいろな情報を提供しそれを活用していただき、更にこの科学館を中心に札幌市内もしくは北海道内のいろいろなところと広く連携していただければと思います。

<JAXAの技術の還元について>
参加者: 予算についての話がありましたが、経済学の観点から言って、事業仕分けなどがありましたが、私の意見としては予算は十分にとるべきだと思います。
理由は3点あり、一点目は、JAXAの果たしている機能は、本日のようにたくさんの方が集まって抽選でタウンミーティングが開かれるなど国民に夢を与えている、つまり消費者としての高揚を上げているという機能は非常に大きいものがあります。これはなかなか事業仕分けの中ではカウントされないだろうと思いますが、非常に大きな機能だと思います。
二点目が技術のスピンオフの例で、宇宙開発で培った技術が国民に帰ってくるということ、最後の一点が先ほど出た将来のイノベーターを作っていくということの3つです。先ほどの質問で出たイノベーターについては、どういうことをやっているかはわかりましたが、この中で1つ違和感があることがあります。
それはスピンオフなのですが、先ほど技術が米露に追いつくことが目標で酸素発生とCO2の吸着技術を持っているのはロシアだけだ、米露に追いつくようにと取り組んでいると言いましたが、アメリカとロシアとどちらが豊かな国か、当然ながらアメリカが豊かです。我々経済学から見ると技術のための技術ではなく、我々が食えるための技術にしてほしいというのがあります。
アメリカの場合、宇宙開発につくられたもの、技術がスピンオフという本来の目的でないところで転用され、新しい産業を作ったりしていると聞いています。JAXAがいろいろな努力を積極的にしていれば、事業仕分けでも十分に主張ができ、むしろ予算が増える方向に向かう可能性も十分にあるのではないかと思っています。どのような考えを持っているか教えていただきたいと思います。
長谷川: 米露に追いつく云々の話で違和感があるのは間違いないです。いろいろな視点で言ったため訂正しなければならないのは、JAXAがおかれている立場は、国民からの貴重な税金がきちんと社会に還元できるような、そういうものに選択と集中をすべきというのが今のJAXAの意向です。そのため、今、酸素発生装置、炭酸ガス吸着装置は優先順位が低いです。本当に重要かというと、今のところその必然性がまだまだ薄いので、当面は必要ない、その代わり今必要なのは、せっかく持っているHTV、「きぼう」を最大限生かすような利用に拡げていこうというのをメインに挙げています。
その中の1つとして、タンパク質結晶を無重力でやることでその中の構造がわかり創薬ができる、その分野が今、製薬会社へと拡がりました。細胞培養での話とか、宇宙医学の話とか、そういう方がよいだろうということと、地球観測で気候温暖化のセンサーを入れる方に優先順位を上げています。優先順位は確かに違います。
スピンオフの話では、アメリカもヨーロッパもそうですが、スピンオフは副次的なものでそれを目指してやっていることではありません。スピンオフで洗練された技術の中で、再生型燃料電池などはまさに宇宙で花開いたものですし、今、パソコンで使っている熱変換装置もそうですが、これらはスピンオフそのものを目指してやっているわけではないので、事業仕分け等で説明してもあくまで副次的なものとなります。
現在、コスモードといういろいろなスピンオフで行った技術を副次的に拡げていく動きはしています。

<宇宙へ持っていった菌について>
参加者: 私は日本酒が好きでよく飲むのですが、以前、宇宙に持って行った酒の菌で作った「しらぎく」という日本酒があると聞きました。
ネズミの菌細胞は冷凍して持って行って運ぶという話と、炭酸ガスが発生してしまうものは生物として運べないという話がありましたが、酒の菌は生きていて常に発酵していますが、これはどのようにして運んだのかということと、ほかに食べ物に関する菌は何か宇宙に持って行ったのでしょうか。
長谷川: 「きぼう」ではなかったのですが、ロシアのモジュールで、ある宇宙関係の会社が宇宙酒として持っていきましたし、ヨーグルトも持っていっています。
宇宙に行くと重力の縛りが解けるようで、発酵の現象が変わり、その率があがるそうです。それがすごく意味があるということで、宇宙に行って増やして、その増やし方がわかると地上で増やして、かえって抗体になるのではないかということで、製薬会社や大学の先生は興味を示しています。
もう一つは、壁に張り付くカビも実は重力の影響がなくなるようで、2~3倍ロシアでは広がる率が多いそうです。それをどうやって防ぐかというのがロシアの技術で、実は病院で応用しているという話がこの前のシンポジウムがありましたが、それをまた広がることの防護策を宇宙でやるため、それを応用しようという病院とか手術室で使っているという話があったり、意外と私たちでもわからない話があちこちで出始めています。

<大気圏で高温になる理由について>
参加者: 大気圏に突入するとき、なぜ高温になるのですか。
長谷川: 「はやぶさ」は、先日オーストラリアの砂漠に降りてきました。およそ地上から80~100kmぐらいから大気があります。実際、高速で入ってきます。スペースシャトルの場合は時速で言うと2万8,000kmぐらいで「はやぶさ」の場合は実は秒速12kmですので1.5倍です。物すごい勢いで弾丸のように入ってきます。そうすると、空気と本体との摩擦熱及びいろいろな輻射熱がまとわりつくため、高い温度の場合、「はやぶさ」の場合は5,000度から10,000度上がっただろうと言われていますが、そういうものがずっと空気層を押していきます。高速で空気をぐっと押すので当然熱が出ます。