JAXAタウンミーティング

「第45回JAXAタウンミーティング」in 姫路(平成21年12月6日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙科学」で出された意見



<宇宙ステーション補給機(HTV)の特徴について>
参加者:HTVの説明の際に、国際交渉力の説明がありました。これは、国際的に認められる実力ということですか。日本以外にもヨーロッパとロシアが補給機を持っていますが、新聞によると、それらの補給機よりも日本の補給機が優れているとありました。その優れている点と国際交渉力について説明をお願いします。
司会(広報部長):優れている点ですが、HTVは、補給キャリア非与圧部が宇宙空間にさらされています。HTVは補給機なので物を運びます、別の言い方をすればトラックの荷台です。宇宙空間にさらすことができる荷台で、物を運ぶことができる特徴があります。ロシア、あるいはヨーロッパの補給機は、宇宙空間にさらされるような物を運ぶことはできません。日本の補給機が唯一運ぶことができます。
一方、国際宇宙ステーションでは宇宙飛行士が生活するので、補給キャリア与圧部の中に食料や水、衣類などを積んで運んでいきます。これは、ロシア及びヨーロッパも運ぶことができます。ただ、国際宇宙ステーションにドッキングするポートの大きさが、ロシアとヨーロッパのものは80cmなので、80cm以下のものしか入りません。国際宇宙ステーション全体は基本的には1.2mの構造物で中が作られています。HTVのポートの大きさは1.2mで、大きな物を運ぶには、HTV以外の輸送機で運ぶことができません。そのため、スペースシャトルが退役した後に残っているのは、HTVしか運べないということになります。これが2点大きな特徴です。
国際交渉力については、技術がなければ日本に対して相手方は何も期待しないですし、技術があることによって初めて国際交渉力が成り立ちます。例えば国際宇宙ステーションの計画自身は、お互いの共通部分については、財源の負担があります。12.8%が国際的な協定で決まった日本の負担割合です。これを宇宙飛行士が生活するため、あるいは共通の機器を動かすためのお金としてアメリカに払わなければなりません。しかし、アメリカへお金を支払うよりは自分たちの技術に変えた方が良いので、HTVで国際宇宙ステーションに物資を運ぶことで補っています。ただ単にお金を払うのではなく、自分たちの技術としてHTVで技術開発をするところに特徴があります。

<有人飛行の可能性について>
参加者:HTVについて、今回、NASAの有人飛行の基準を満たすように努力して作ったと聞いたのですが、短期的には10年くらい先を見据えて、現在、日本が持っているH-IIBロケットなどで有人飛行は可能だと考えているのでしょうか。
司会(広報部長):今から有人飛行に取り組むと、もちろんある程度のお金が必要ですが、10年くらいで何とかなるだろうと言われています。ただ、単に人を乗せればよいということではなく、HTVの補給キャリア与圧部は、国際宇宙ステーションに取り付け後はこの中に人が入っても大丈夫なのですが、仮に人を乗せるとなると、二酸化炭素を除去したり酸素を供給するといった生命を維持する為の措置が必要となります。それと同時に有人の場合は安全性が問題になっており、特にHTVよりH-IIBロケットの打ち上げの安全性が求められます。万が一、打ち上げに失敗しても、どこかに帰還できる、更に安全に帰還できるための技術が必要です。今まで日本は、有人での帰還は当然ないわけで、すぐに解決する問題ではなく、技術的にも実証していかなければならない話だと思います。
それらを勘案すると、多分10年くらいかかるのではないかと言われています。

<「はやぶさ」の帰還の状況について>
参加者:「はやぶさ」についてサンプルの採取に成功したとか、失敗したとか、いろいろ報道されていますが、本当はどうなのですか。
また、イオンエンジンが何とか2器見通しがたち、帰還可能の見込みになったと言っていますが、本当に帰って来れるのかどうか教えてください。
小野田:サンプルが採れているかについては、本来であれば「イトカワ」にタッチした瞬間にピストルの球のようなものを打ち出し、破片が「イトカワ」から舞い上がり、これを誘い込んで収納スペースの中に入れて持ち帰ろうとしていました。
しかし、様々な不具合で、ちょうど収納容器のふたが開いているときに、ピストルの球のようなものを打ち出せませんでした。そのため、恐らく最初期待したような大きなサンプルは入っていないと思われます。ただ、収納容器の口は開けており、「イトカワ」の表面にタッチしたので、小さな砂、微粒子の粉は収納容器の中に入っているのではないかと期待しています。
イオンエンジンについては、イオンを加速して放出するメカニズムとイオンを中和するメカニズムがペアになっていますが、現状は様々な不具合が起き、このペアではなかなか使えない状況になっています。現在は、大変変則的な使い方をして、何とか推力を得ているという状況で、いつだめになるかわからないのが現状だと理解しています。
そのため、残念ながら大丈夫ですとここで答えるわけにもいかないし、いつだめになるかわからないけれども、まだ望みはつながっている状況です。

<HTVの大気圏再突入について>
参加者:HTVが大気圏に突入したという話がありましたが、大気圏に突入して燃え尽きたのでしょうか、それとも残骸が落下したのでしょうか。
司会(広報部長):予想ということで申し上げますが、基本的には燃えにくいところがあり、おそらくエンジンのところは破片として南太平洋に落下したと思います。ほとんど船の航路となっていないところに落下するように制御して落下させています。

<外国との比較において必要なものは>
参加者:宇宙開発を続けていく中では、数年ではなく、10年、20年、あるいはもう少し長い目で見なければいけないと思いますが、その中で、もちろん経済力あるいはシステムも大事だと思いますが、外国に勝つためには絶対的な人間の力が必要だと思います。外国と比べて相対的な力、こういうものが必要だということを教えてください。
小野田:私は宇宙科学の担当ですが、特に宇宙科学でやっていくためには、外国との協調と競争が大切です。大きなプロジェクトは日本だけではできず、外国と一緒にやっていきます。外国と一緒にやるためには、日本がある程度の実力を持っていること、それから、日本が外国から見て頼れる存在であることが大切です。
また、学術の場合、自分の頭でよく考えることが大切です。外国がこうだからとか、日本の偉い人がこう言っているかではなく、自由な発想、柔軟な発想で、自分の頭で自分の仮説を立て物事にあたることが重要かと思います。
浜崎:とにかく国際協力と国際協調が非常に重要です。それから、技術力がないと誰も相手にしてくれません。さらに必要なことは、モチベーションです。
日本人がどういうところで国際貢献しているかというと、本当に利益にならない部分の国際貢献、実はこれは日本人が非常に得意としています。例えば二酸化炭素の観測は、ずっと日本でやってきています。二酸化炭素を観測すると、幾らもうかるということは全くないわけですが、日本のいろいろな研究者が長年にわたってこつこつとデータを蓄積し、それを世界に届けています。このことが本当の国際貢献か、何のためにやっているのか、様々な考えがあると思いますが、日本人が世界に貢献したいという非常に高いモチベーションを強く持ち続けてきたことではないかと強く感じています。
これからの世代で大事なことは、日本の国がどうあるべきか、今、自分たちをどう規定するか、世界に、経済的ではなくいろいろな形で貢献し続ける自分になりたいということを我々、あるいは若い世代がどれだけ強くモチベーションとして持つか、それを育てることが非常に大事ではないかと強く感じています。

<(1)JAXAの所管の変更について (2)今後の衛星打ち上げの優先について>
参加者:
(1)宇宙基本法ができJAXAの所管が文部科学省から国に変わるということですが、何か変化があるのでしょうか。
(2)先日、情報収集衛星が打ち上げられましたが、今後、科学技術衛星よりも情報収集衛星を優先して打ち上げていくことはないのでしょうか。
司会(広報部長):
(1)宇宙基本法関係ですが、昨年、宇宙基本法ができ、今年、宇宙基本計画ができました。その中でJAXAの組織についても見直すことが附帯として書かれています。ただ、現実としてどのように見直されるかはまだわかりません。政府で議論されると思います。そのため、今の質問に正しく答えられないのが現状です。
(2)安全保障上の情報収集衛星はどうなるかは、国レベルでの話で、当然宇宙科学も進めていくことが宇宙基本計画に書いてあるので、どちらに重きを置くということではなく、両方進めることだと思います。皆さんの支援で宇宙開発が進められるので、皆さんの支援があれば宇宙開発はどんどん進むと考えています。

<火星に行くための費用と期間は>
参加者:仮に火星に行くには、どのくらいの費用が必要で、年数としたらどのくらいの期間がかかりますか。
司会(広報部長):今、費用と言われても見当がつきません。また、我が国単独で計画を立てられるかというと、多分それも無理ではないかと思います。一方、アメリカ一国でも多分できなくて、国際協力で行うのではないかと思います。では、具体的にどういう計画になるかは、例えばアメリカにしても、ブッシュ政権が立てた計画を見直そうという動きがあるので、火星にいつ行くかはわかりませんし、費用についても端的に何億円と言える状況ではないと思います。

<国際宇宙ステーションの運用期間について>
参加者:国際宇宙ステーションで今後のスケジュールが2015年までの説明があったのですが、国際宇宙ステーションの完成が2010年とのことですが、国際宇宙ステーションはいつまで運用するのでしょうか。また、今後、新たな国際宇宙ステーションの具体的なスケジュールはあるのでしょうか。
司会(広報部長):国際宇宙ステーションについては、2015年で運用を終わらせるのはもったいないので、日本、ヨーロッパ、ロシアのそれぞれの宇宙機関が2020年くらいまで延ばそうと話をしています。ただ、鍵を握っているのはアメリカです。アメリカは2015年までで運用を終わらせるとブッシュ政権のときは言っていましたが、現在見直しを行っており、最近のレポートでは、最低でも2020年くらいまで延ばそうという動きがあります。ただ、最終的な決定はこれからで、その決定を待っているのが現状です。

<(1)「はやぶさ」について (2)宇宙飛行士は風邪をひくのか>
参加者:
(1)「はやぶさ」はいろいろなアクシデント等がありながらも、何とか起動していると思うのですが、宇宙空間に行くと、機器は壊れやすくなるのでしょうか。また、「イトカワ」に1回目に着陸をしたときに体制を崩したと新聞報道であったのですが、ほぼ重力はないと思うのですが、当たったときの衝撃は重力のあるところと違うのでしょうか。
(2)宇宙飛行士の方は、風邪は引かないのですか。宇宙空間は紫外線でウイルスが発生しにくいのでしょうか。
小野田:
(1)宇宙空間でいろいろな機器が壊れやすいかは、宇宙空間の環境は地球上と違うので、地球上で正常に動く機器も宇宙空間では動かない、あるいは壊れやすいことは現にあります。ただそれは、ほぼどの衛星でも同じなので、「はやぶさ」に限ったことではないと思います。
ただ「はやぶさ」は、例えばイオンエンジンでも宇宙で作動した経験がないような長時間作動するなど大変工学的に挑戦的なことをやっているので、多少の不具合も実験のうちと温かく見守ってもらえればと思います。
また、ぶつかったときに重力があるかないかで違うかという話ですが、同じものが同じ速度でぶつかれば、特殊な場合を除いて同じダメージだと思います。そのため、重力があって、重力で引っ張られてぶつかる瞬間に速度が上がれば、大きなダメージになります。
浜崎:
(1)人工衛星一般で話すと、人工衛星は打ち上げてから5年、10年故障無しで動き続けなければなりません。例えば電球の寿命は、1,000時間くらいです。5年間動き続けるとなると44,000時間くらいですが、これだけの時間、そのまま動き続ける部品を作ることは非常に大変です。これは宇宙に限らず、地上でも大変です。それに加え、宇宙空間では非常に強い放射線が当たります。
特に繊細な電子部品ほど放射線に弱いので、宇宙で使っている部品はその放射線に耐え得るような特殊な試験を繰り返してから打ち上げています。温度環境も衛星の表面で日の当たるところはプラス100度くらい、日陰の部分はマイナス100度くらいになっているので、中の機器を保つために非常に精密な温度制御をしています。外は急激に温度が変わっても、衛星の中は15度、20度くらいにおさまるような工夫を重ねながらやっているので、「はやぶさ」に限らず衛星を5年間動かし続けることは非常に大変な問題です。そのため、衛星の中の機器は大体すべて2つ以上載っていて、1つが壊れても大丈夫なようになっています。
(2)宇宙飛行士は風邪をひかないかという話ですが、宇宙飛行士も風邪はひきます。宇宙飛行士は、打ち上げの直前になると隔離され、接触する人も本当に家族のみで、その家族も非常に健康に気を使っています。そのため、体調を崩すことがあっても、大きな病気をすることはないようです。
ただ生身の人間なので、特別なことはないし、宇宙空間で特にかかりやすい、かかりにくいという話は、直接は聞いていません。