JAXAタウンミーティング

「第44回JAXAタウンミーティング」in 宇都宮(平成21年12月3日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙開発の将来展望」で出された意見


<LNG(液化天然ガス)エンジンの長所について>
参加者:LNGエンジンの説明がありましたが、今、使っている水素のエンジンと比べて、どの点がよいのでしょうか。
司会(広報部長):水素は-250℃で液体になり、分子も小さいので扱いが非常に難しいです。一方でLNGは、液体にするために冷やしますが、水素と比較して扱いやすく、その点では、燃料の取扱いが非常に楽になる点があります。
参加者:燃費がよいということではないのですか。
司会(広報部長):効率的な話で言うと水素を使ったエンジンの方が効率はよいです。

<(1)3種類のロケットの違いについて (2)衛星の寿命について (3)スペースシャトルの退役について>
参加者:
(1)H-IIBロケットとLNG(GXロケット)、固体ロケットの3種類の説明がありましたが、それぞれのメリット、デメリットを教えてください。
(2)衛星の寿命はどのくらいでしょうか。
(3)スペースシャトルは2010年で終わるということですが、NASAはどうして止めるのでしょうか。
林:
(1)ロケットについてですが、大きさで異なっています。H-IIAロケット、H-IIBロケットは非常に大きく、打ち上げる値段が高いです。大きいということは、非常に大きな衛星を打ち上げることが可能なわけで、その点でメリットはあります。ただ、科学衛星の中には非常に小さな衛星があり、この場合、打ち上げの効率が悪いという問題があります。
GXロケットは、LNGのエンジンを2段目に使い、1段目はアメリカのエンジンを使用し、JAXAが協力する形で進めているところです。
これについては開発中の段階ですが、事業仕分けの段階では、「廃止」という話になっています。
「廃止」については、我々は非常に厳しいと思っています。特にJAXAが開発中のLNGについては、GXロケットだけに使うということではなく、仮にGXロケットがだめとなった場合でも、宇宙ステーションからより外の軌道に出て行く軌道間輸送に使えないかを議論してもらおうと思っており、現在、政府と調整しているところです。
GXロケットはなぜやっているかというと、大きな衛星ではなく、中型ないしもう少し小さい衛星を安くで打ち上げたいと思っています。大体の目算では、例えばH-IIAロケットは85億から120億で、H-IIBロケットはもう少し高いのですが、そのような値段です。それに対してGXロケットは、その半分程度の値段で打ち上げることを模索している段階です。
固体ロケットは、更に小さな衛星を打ち上げるときにもう少し安くなるかどうか、これから研究・開発していく必要がありますが、可能となれば非常に効率的になります。これはまだ基礎研究でやっていますが、我々は開発したいということで、今、政府と調整しているところです。開発して実際に打ち上げるとなると、3~4年後という段階になると思います。
これは日本だけがいろいろなことをやっているわけではなく、各国大体同じです。大きなロケットから小さなロケットまで持っているのは、アメリカもそうですし、ロシア、中国もそうです。ヨーロッパも、全部アリアンロケットではないと思いますが、幾つかのロケットを持っている状況です。
(2)衛星の寿命はいろいろあります。数日で終わる衛星も過去には打ち上げられました。一方、一番長い衛星だと通信衛星で十数年、15年くらいの寿命です。そういう意味では、千差万別です。大体普通は数年の寿命が多いと思います。
司会(広報部長):
(2)衛星がどのくらいの寿命かという話ですが、衛星の寿命を決める大きな要因は、部品の故障・摩耗などを除くと大体2点で決まります。
1点が燃料で、衛星の軌道は常に太陽や重力の影響等で変わるので、それを維持するために燃料を積んでいます。その燃料が枯渇すれば、当然のことながら軌道が不安定になりミッションは終了する形になります。まず燃料の搭載量で決まります。
もう1点は、電力には太陽電池パネルを通常使っています。太陽電池は、放射線を受け劣化します。劣化すると、例えば当初、7KWの通信をしようと思っていたが、どんどん劣化し2KW、3KWになると通信ができなくなり、これが寿命を決める要因です。
(3)スペースシャトルですが、スペースシャトルは実際私も本物には乗っておらず、シミュレータを見ただけですが、やはり古いです。30年以上前の設計で作られており、かなり古くて、しかもコストがかかるので、アメリカもやめざるを得なくなったのではないかと考えます。

<(1)機密漏洩の対策について (2)外国からの留学生受け入れについて>
参加者:
(1)基盤技術、データ、あるいは設計図は、どのように機密漏洩に対して対策がとられているのか教えてください。私の経験から民間企業は、非常に厳格に管理されていますが、大学や国の研究機関は、残念ながらガードが非常に甘いように思えます。
(2)外国からの留学生は受け入れているのでしょうか
司会(広報部長):
(1)情報管理ですが、どのように工夫をしているかについては、詳細は申し上げられません。特にロケット関係や機微な情報については、区分を厳しくして管理しています。JAXAの職員でも簡単にアクセスできない管理を行っています。
(2)神奈川県の相模原にある宇宙科学研究本部に留学生はいますが、この場では出身国まではわかりません。基本的には、外為法に従い、技術輸出等の手続はしっかりやっています。通常、大学ではそこまでやっていないところもありますが、私どもでは厳しいセキュリティ体制をとってやっているつもりです。
林:
(2)留学生の受け入れについては、相当丁寧にやっているつもりです。特にこれは日本だけ、JAXAだけということではなく、やはり宇宙の技術は、もともとの前身が軍事技術に非常に近いところがあり、我々携わっている人間だけではなく、政府、あるいはアメリカも含め、常に議論になっています。
例えば非常に困るのは、いろいろな部品の調達についても、我々が欲しいと思ってもなかなか来なかったり、我々がよいと思っても、簡単に輸出ができなかったりします。そのくらい厳しい状況でやっているつもりです。

<(1)「かぐや」と「チャンドラヤン」の比較 (2)GXロケットについて (3)スペースシャトルの維持について>
参加者:
(1)「かぐや」について、ハイビジョン映像など大変面白い画像がありよかったのですが、14種類のセンサーを積んでいるにもかかわらず、インドのチャンドラヤンは水を発見したのに「かぐや」はできなかった理由は何ですか。
(2)GXロケットについてですが、やはり打ち上げる重量に対して全部ロケットをそろえるのは少しいかがなものかという気持ちがあります。経過も大分遅れているので、コスト削減にはつながらない状況があると思います。この辺りで考えた方が現実味がある感じがしますがいかがでしょうか。
(3)2010年にスペースシャトルが退役しますが、はっきり言って世代交代はどうしようもないと思います。JAXAは約2,000億円の予算があるので、その1,000億円をNASAに貸すという形でシャトル計画を続行、あるいは強力に介入してはどうでしょうか。つまり、日本人の宇宙飛行士を上げてくれとお金を出して協力をお願いするというのも選択肢の一つだと思いますが、いかがでしょうか。
司会(広報部長):
(1)「かぐや」そのものは水の発見をねらったわけではなく、例えば重力異常や表と裏で生い立ちが違うとか、まず月の起源を調査するところに一番の主眼があったので、水が発見できなかったから「かぐや」がチャンドラヤンに劣っているとは思いません。
また、水の発見についても、永久影のところで表面上に水があるかというのは、高度計等を使って調査したところ、今のところ、極にも表面上は水がないという結論も得ているので、決して水を発見できなかったからチャンドラヤンに劣っているとは考えていません。
林:
(2)GXロケットの話ですが、LNGエンジンの開発に少し手間取ったことは事実です。
そういったことを踏まえ、今、どうするかということは、これは既に我々の手を離れ、我々としては必要があると思っていますが、これは事業仕分け、ないしはその次のステップとして、宇宙戦略本部で決断をすると思います。
(3)スペースシャトルの話ですが、1,000億円で本当にスペースシャトルが維持できるかどうか計算したことがないのでわかりませんが、全然足りないのではないかと思います。
なおかつ、日本が1,000億円を出したから、アメリカがスペースシャトルの維持をやろうかという気になるという議論はないと思います。むしろ、アメリカはスペースシャトルの経費をできるだけ削って、次のステップの有人技術を開発したいということだと思いますので、仮に日本が1,000億円出すといっても、アメリカが同意するかどうかはわかりません。
我々はとりあえずソユーズがあるわけなので、ソユーズでやっています。その間、空白期間が生じることは間違いありませんが、アメリカの有人技術は、次のステップまで少し時間がかかるため、その間はソユーズに頼るしかないというのが現状と考えます。
参加者:維持費もかかる上に、高額なロケットを上げた後、ソユーズに頼むということになりますか。それが基本的な計画だったのですか。
林:結果として、今、こうなっているわけで、これはご存知のように、国際宇宙ステーションはいろいろな理由で遅れてきました。もともと開発を決断したのはレーガン大統領で、レーガン大統領はロシアと一緒にやる気はなく、むしろ西側の結束を確認する発想に近かったです。それがレーガン大統領、ブッシュ大統領の後、クリントン大統領になったときに規模を下げ、その上で、なおかつロシアと一緒になって長年なされてきました。
ロシアが国際パートナーとしてどのくらい信用性がおけるかという議論は、過去にもありましたし、現在もあると思いますが、少なくとも、国際宇宙ステーションのパートナーとしては非常に質が高いと思います。
我々の仲間が数年間、ソユーズで上がっていくわけですが、これについてはロシアを信用して、きちんと打ち上げてもらう考え方に立っています。
司会(広報部長):国際宇宙ステーションを維持するために、私どもは12.8%のある種のリソースを供給するか、お金を支払うかということになっており、私どもはHTV(宇宙ステーション補給機)を使って今後も物資を補給することによって、アメリカ側には一切お金を払いません。アメリカの技術者を支えるよりは、国民の税金ですから、日本に還元した方がよいのではないでしょうか。

<ロケットの打ち上げコストについて>
参加者:GXロケット、固体ロケット、それと、今までのH-IIロケット、この3種類の説明がありましたが、ペイロード当たりのコスト、打ち上げのコストはどのような関係なのでしょうか。
例えば3種類のロケットをこれから持とうとか、あるいは持ち続けていこうと考えたとき、ロケット打ち上げはかなりビジネスの世界になってきていると思いますが、1つがどのくらいのペイロードが今後の商売としては何年間にどのくらいあるという考えをもって、それならばGXロケットをつくった方が可能性が高いだろうとか、そのようなこともきっと考えていると思いますが、どのような計画を立てているのでしょうか。
林:コストは手元にないので一般論で答えます。まずH-IIロケット、これは日本の基幹ロケットで、今年の夏に作った戦略本部の宇宙基本計画の中にどういったものを打ち上げていくか、これはほとんどH-IIAロケットを使っています。H-IIBロケットは国際宇宙ステーションの国際約束があるので、毎年1機上げていきます。
更にH-IIAロケットは三菱重工がメインでやっているロケットで、これは国際的にも他の国の衛星を上げたいということで一生懸命顧客を取ろうとしています。なかなか難しいのですが、毎年1基とか2基取っていければ非常に喜ばしいですが、そこまでいっていません。
2つ目のGXについては、むしろJAXAというより民間側で議論をしており、民間側としてはやはり年に2基くらいは念頭において、特にこれは日本の衛星ということではなく、世界に市場があるはずだという前提で、中型の衛星になっています。それが戦略本部の中で、GXロケットの開発を継続するかどうかという判断の議論に入っていくはずです。
それから、固体ロケットですが、これは今、基礎研究をやっている段階です。JAXAの中に科学研究をやっているグループがあり、毎年、1基、2基、非常に小さな衛星を上げ、いろいろな観測をしたいというニーズがあり、その関係で固体ロケットを開発したいと思っているわけです。
司会(広報部長):H-IIAロケットは大体85億から120億となっていますが、それで静止衛星が2トン、H-IIBロケットだと147億くらいで、静止軌道に4トンの打ち上げ能力があるので、スケールメリットはありますが、常に衛星があるかという問題があるため、やはり最適なロケットをそれぞれ選ぶのが妥当ではないでしょうか。

<(1)タウンミーティングについて (2)JAXAのロードマップについて (3)有人輸送機の開発について>
参加者:
(1)タウンミーティングで出てきた意見はJAXAはどう考えているのですか。これからJAXAが取り組んでいく施策等に取り入れていくのかどうかを伺いたいと思います。
(2)2005年くらいに2025年までのロードマップを作ったと思いますが、それについての言及が全くなく、あれは一体、何だったのだろうか、結局、あれは作っただけだったのかと思ってしまいますがいかがでしょうか。
(3)有人についてですが、例えば小学生や中学生に聞くと、やはり宇宙に行きたいというのが一番の希望だそうです。先ほど宇宙輸送システム=ロケットとの説明がありました。やはり人が乗れるような将来の輸送計画、再使用型のシャトル型になりますが、先ほどロシアに任せてしまうという話がありましたが、日本はどうするか、もちろん日本だけでは作れないと思いますが、日本がリーダーシップを取って、シャトルに代わる再使用型の輸送系を作らないのでしょうか。
林:
(1)タウンミーティングは、私が登壇したのは初めてですが、実は今回で44回目で、毎回毎回、理事会で報告されています。少なくともJAXAの実行責任者、経営者たる理事会のメンバーでタウンミーティングでどういった議論がされたか、討議でどういった質問が出たか、それから、今日も後でアンケートにお答えいただき回収させていただきたいと思っていますが、どのような方々が来られたかなどをきちんと分析し、我々の次のステップのいろいろな計画や実施に役立てています。それが必ず実現となっていくわけではないのですが、いろいろな意味でまず一度、経営者たる理事長以下に報告することはやっています。
我々としては、タウンミーティングは非常に大事なことだと思っており、それをまず経営者で咀嚼し、その次のステップとして実際のJAXAの仕事に反映させていきたいと思っています。
(2)ロードマップ2005、これは非常に厳しい質問ですが、ご存じのように、ここ2年くらいの宇宙を取り巻く動きは激変です。激変でなおかつまだ続いています。2年くらい前からいろいろなことが起こり、我々としては平時であればしっかりと取り組んでいくのですが、ここ2年くらいで起こったことは、想像をはるかに超えることが起こりました。
大きな意味では、文部科学省あるいはJAXAの体制がそもそもよいかどうかという議論から始まっています。文部科学省は基本的には学術と技術開発をやっている役所ですが、本当にそれでよいのか、足りないのではないかという議論が今、起こりつつあるわけです。
国民の税金を使ってやっているが単なる技術開発、サイエンスの知的好奇心だけで終わらせてよいのか、もう少し国民そのものに還元すべきではないかという強い意見があります。
そういった中から単に文部科学省の中にある宇宙開発委員会、文部科学省の管轄下にあるJAXAという格好ではなく、オールジャパンでやるべきではないかという議論があり、それの結果として昨年できた宇宙基本法に結実したというのが大きな流れです。
したがって、2005年のロードマップについては、我々は現在もきちんと考えているつもりですが、現在はその枠内で動くという形には残念ながらなっていません。むしろ、今年できた宇宙基本法に基づく宇宙基本計画をもっと重視することが現在の流れです。
(3)有人の話ですが、単なる物理的な重量でのロケット能力では、日本は十分に達しています。特にH-IIBロケットを持った段階で、日本は人間を乗せ打ち上げる能力があると思います。
ただ、決定的に欠けているものは人間を運ぶための器です。回収する技術がありません。ようやくできたのがHTVです。これは人間を乗せるわけではなく、物を乗せてようやく宇宙ステーションまで持っていく能力ができました。今回のHTVは、燃え尽き回収することはありませんでした。人間の場合、燃え尽きさせるわけにはいかないので、新たな技術開発が必要です。
我々としては、ロケットの能力、信頼性を高くすることが必要だと思いますし、まず人間を乗せて打ち上げる器を開発する必要があると思います。それから、HTVでは、今までは単に上に上がるだけで、再突入の熱などの問題をクリアしていません。これらを技術開発していく必要があると思います。
ただ、ロケットの信頼性を上げたり、回収するための新しい器を作るとなると、非常にお金がかかります。これらを国としてやるかは、大きな判断が必要だと思いますし、まだ決断がされていません。我々はこれらの決断を前提に、いろいろな基礎研究をやっていかないといけないと思いますし、それを踏まえ決断がなされれば、我々としては次のステップに移りたいと思います。

<(1)有人ロケットの安全面について (2)「かぐや」の後継機について>
参加者:
(1)日本のH-IIBロケットは、宇宙飛行士を宇宙に上げる能力は十分と聞いたのですが、今まで上げているのは人間ではなく物なので、宇宙飛行士を宇宙に上げる際、安全面の問題はどうなっているのか教えてください。
(2)月に「かぐや」の後継機を上げるといった計画を聞いたのですが、この後継機は何を目的としているのですか。
林:
(1)まず信頼性が一番問題です。普通、物を運ぶ場合95%くらいが前提ですが、人間の命がかかっているのでそれでは全然足りません。99%以上だと思いますが、そういったものを技術開発していかなければなりません。
乗り心地も含めてですが、きちんと技術開発をしていく必要があると思います。
司会(広報部長):
(2)「かぐや」や月の計画を立てたときは、最初は月をまず観測し、次は実際に着陸機をおろしてロボットで月を実際に観測する、その次はおそらく人が行って観測したりサンプルリターンという形で持って帰る、こういう手順になるかと思うので、次の「かぐや2号」では、おそらく着陸点におろして、探査ロボット等で観測という手順になると思います。
参加者:探査ロボットについてですが、今回「かぐや」だと月の起源を探るという目的がありましたが、「かぐや」の後継機の探査ロボットはどのような目的で月に向かわせるのか教えてください。
司会(広報部長):詳細はこれからまさに「月探査に関する懇談会」で決まると思いますが、基本的には更に表面等を詳細に見るとか実際にそこに行かなければわからないことを観測することになると思います。
林:実は今、政府の宇宙開発戦略本部で「月探査に関する懇談会」があり、そこで議論をしています。ここでは、サイエンスの観点や資源開発、ロボットなどの革新的な研究開発など月の探査をやる目的なり意義は何かを議論をしています。また、その上で、どのようなシナリオで何年くらいかけてやるかといったことについても議論をしています。
更に次の問題として、どのくらいのコストがかかるか、これは相当なお金をかけてやらないといけないと思います。それが宇宙全体の中でどのくらいを占めるかは当然議論があるわけで、今、宇宙開発戦略本部で議論されています。