JAXAタウンミーティング

「第39回JAXAタウンミーティング」 in 名古屋(平成21年10月5日開催)
会場で出された意見について



第一部「国産旅客機開発に向けての、JAXAの技術協力」で出された意見



<高高度旅客機の開発について>
参加者:航空機の開発ということで話をしていただきましたが、いずれ大気圏内を飛行する高高度旅客機の開発も視野に入れていますか。
石川:今の話は、以前、レーガン大統領が取り上げたオリエントエクスプレスや極超音速機につながるものへのご質問だと思います。基礎的な研究はやっています。これは幾つもの技術を積み重ねて行なっていくもので、今、一番欠けているのがエンジンです。普通のロケットのように酸素を積んでではなく、空気を吸い込み液体水素を燃やす極超音速エンジンの基礎研究を行なっています。これは非常に時間のかかることで、アイデアはいろいろありますが、去年、我々がある種のアイデアで行なった燃焼試験が世界で初めてという状況で、実現するには、例えばあと10年でできるかと言われると無理です。20年でも難しいかもしれません。しかし、30年後にはできていてほしいと思います。非常に時間がかかります。
それから、非常に熱を発生するため、高温で耐える構造材料が必要です。この辺りは私のかつての守備範囲ですが、これも非常に時間のかかる研究です。ただ、これを地道に積み上げていかないと、いざ、つくれと言われてもできないわけです。あまり多額のお金はかけていませんが、時間は非常にかかります。これを着々とやっていると理解いただければと思います。
その一つ前の段階の超音速機、かつてのコンコルドの技術を飛躍的に高めたもので、これは音の速度の2倍くらいで飛ぶものです。これについては、もう少し大きなレベルの研究をやろうとしています。かつてコンコルドが飛んでいましたがリタイアし、現在、後釜がいない状況になっています。それにはいろいろ理由がありますが、この研究はスケールアップして行なおうとしています。マッハ5とか6、つまり日本とロサンゼルスを2時間で行くようなものは、まだ非常に年月を要します。

<JAXAの技術協力について>
参加者:航空機と言えばMRJのほかにホンダジェットがあると思います。JAXAの技術協力は、民間企業からの要請で行われているのかどうか、三菱重工からは要請があったが、ホンダからはなかったとか、あと技術協力した場合、対価はもらうのかどうか、その辺りを教えてください。
石川:ホンダジェットの場合、いわゆる5~6人乗りのビジネスジェットとして開発され、しかも純民間企業努力で開発しています。MRJに比べると、開発費のけたがひとけた半くらい違います。ホンダジェットの場合、ある種、企業のリスクと努力で20年近く前からやっています。まだ極秘の状態のとき、研究レベルでのサポートはしましたが、大がかりなサポートは相手側からの要請もありませんし、きちんとした形ではやっていません。
一方、MRJは、ある種、国策プロジェクトと定義されています。これも三菱重工に最初から決めたということではなく、公募したところ、三菱重工と富士重工他のチームが応募し決定されたわけです。JAXAは、お金の面よりも、我々がもともと持っていた技術を更に発展させ、あるいは大きいスケールでサポートすることをやっています。
対価という意味では、いろいろと複雑ですが、基本的な考えとしてはもらっていません。しかし、風洞試験をやる場合、基本的には有償で貸しています。すべての作業に対価をもらうことはありません。

<航空機開発の今後について>
参加者:燃費の向上ということで見ると、半分がエンジンのお陰で燃費が向上していると聞いたところですが、主翼が残念ながら複合材ではなくなったということで、今後、例えば同じようなエンジンを使った機体などにMRJは超されてしまう可能性はないのでしょうか。また、今後、エンジンの開発はJAXAや日本でやっていくことはないのでしょうか。
石川:つい最近、主翼が複合材料からアルミに戻すという発表がありました。細かいことは三菱さん社内のことですが、私どもにも説明をしていただいたのは、MRJの設計の場合、翼が三次元的に反った空力設計になっていて、それをCFRPで詳細設計していくと、実は余り軽くならないということがわかってきたという説明でした。もちろん、開発費用もCFRPにするとかさみます。幾つかのトレードをした結果、MRJの少なくとも最初のバージョンにおいてはCFRPを諦めることになったと思います。私もCFRPの研究をやっており、ある種残念です。アルミにすると重量増となりますが、最初はもっと重量が増えると思っていましたが、その差が若干しかないということがわかり、そのために相当のコストをかけるのであれば、アルミに戻しましょうという決断であったと聞いています。
もう少し突っ込んだ説明をすると、CFRPの場合、燃費のメリットよりも錆びないことからくる整備コストの低減が大きな採用動機です。錆びないことで生ずる整備費の低下をボーイング787でも売りにしていますが、MRJでは、とりあえず当初の機体はアルミでいくことになりました。
先ほどのライバル機、カナダの会社がMRJと同じエンジンで、主翼もCFRPだと言っています。ところが、カナダの関係者が言うところですが、この会社は複合材料技術には弱く、実は今まで三菱重工がこの部分をつくっていたのですが、ライバルには当然供給を停止したので、これは個人の見解ですが、カナダは言っているだけで多分つくれる会社はない状況にあると思います。もちろんライバルそれぞれに優劣はあるのですが、少なくとも現状の設計では、空力抵抗にはライバルと相当な差があるので、先ほどの燃費の優位というのは当分維持されると思っています。
私の希望的な予測としては、将来のもう少し大きくしたバージョンでは、主翼もCFRPにまたチャレンジされる可能性もあるかもしれません。すべての旅客機では、将来的には主翼もCFRPになっていくという大きな流れがあり、そういう方向になってくると思います。
ちなみに中国製はほとんどメタル、一部複合材料が入るかもしれませんが、ほとんどアルミ合金と聞いています。ブラジルのライバル社はアルミ製です。CFRP部品は、日本製を使っています。
また、もう一つの質問にお答えしますと、エンジンの研究はJAXAでもやっていますが、残念ながら日本では完全に責任を持って全部つくる航空機用のエンジンはありません。日本のエンジン会社は残念なことに、まだ部品だけを、プラット・アンド・ホイットニーとか、ゼネラル・エレクトリックとかに供給しています。MRJのように完全に日本の力で民間機のエンジンを全部つくるということはまだできていません。日本の自衛隊機では、日本が完全に全部つくるエンジンも載せていますが、いわゆる商品競争力というのはまだないので、いずれ獲得してもらいたいとは思っています。これも非常に時間のかかる話です。

<落ちない飛行機の開発について>
参加者:私ら一般の人は飛行機に乗るとき、飛行機はジェットエンジンで飛んでおり、エンジンが止まると真っさかさまに落ち命の危険があると考えます。しかし、国産のYS11は昔に聞いた覚えがあるのですが、エンジンが止まってもそのまま飛んでいると言われました。そういうことから言うと、MRJもそうですが、日本の今の技術の関係で落ちない飛行機というのを考えていることはあるのでしょうか。
石川:エンジンが両方止まれば、YSでも何でも必ず落ちます。YS11も他の飛行機もいくつかのエンジンのうち1つが止まっても、絶対に落ちない設計には必ずなっています。
落ちない飛行機ということで、研究をやっている大学の先生もいますが、厳密に言えば、それは落ちにくい飛行機ということで、絶対に落ちないという保証はできません。例えば御巣鷹山での事故のように尾翼がなくなっても、ちゃんとしたコンピュータで操縦を支えれば、墜落しなかったかもしれないということで、大きな問題が起きたときに、ぎりぎりまでコンピュータでサポートしていく操縦法ですとか、そういう研究は、当時よりはだいぶ進んでいます。しかし、エンジンが両方止まった際は、いかんともしがたいです。
参加者:グライダーみたいになるような形はないのですか。
石川:今年の冬でしたか、ハドソン川に飛行機が不時着をしました。あのようにうまいパイロットがいて、うまい操縦をすれば、水平には飛びませんが、降下して最後に降りるということはできます。その意味では軟着陸というか、不時着はどんな飛行機もできるようになっています。

<JAXAの研究施設の誘致について>
参加者:航空機の研究開発に対しては、国の関与が必要だという心強い意見をいただきましたが、結果的にこちらに来ていただく研究部門は2,400平方メートルということで、まだまだ小さいです。調布や丸の内とか愛知から遠いところではなく、日本のメッカとしては、研究と製造は近い方がよいのではないかという気がします。答えがあるとは思いませんが、要望として、集中的にこの地域に研究機関を移管していただくよう検討いただきたいと思います。
石川:とりあえず差し迫った要求ということで、MRJについては私どもの飛行実験部隊が一からサポートしなければならないので、まず飛行機を運用して実験する部隊から来させていただきます。その次のことは長期で相談させていただくということで、愛知県さんには空いた土地でも目を付けていただければと思っています。これはなかなか時間のかかることです。飛行実験部門の進出でも実はもう10年くらいかかっていますので、長期戦でしっかり考えていきたいと思っています。

<旅客機ビジネスについて>
参加者:YS11はよい飛行機だったのですが、結果的には頓挫してしまったというか、プロジェクトとしては余り成功したとは思えません。ただ、三菱さんも戦争が終わった後、ビジネスの飛行機を2機くらいつくりそれぞれに技術的に優れたものでしたが、商売としてはうまくいきませんでした。その辺の話を今回のMRJについて、原因は何かということと、それに対してどういった対策を取っていくかということの考えを聞かせてください。
石川:旅客機ビジネスというのは非常に難しいものと聞いています。YS11のときは、飛行機ビジネスに対する全体の理解が非常に低かったということと整備の問題がありました。そして、何よりYS11では日本航空機製造という国策会社をつくってやった結果、責任の所在が不明確になりました。その結果、いろいろな押し付け合いが最後は起きたということも聞いています。
MRJを立ち上げるとき、特に経済産業省では、過去の教訓を綿密に分析し、国策会社でやるのではなく、公募でやって、最後は1つの企業にリスクも含めて責任を取ってもらう前提で国が支援をするということを選んだというのが一番大きな違いかと思います。
ビジネスジェットは、景気の変動をものすごく受けやすい業種で、景気のよいときはよいけれども、途端に失速することもあり、よい飛行機であったけれども、結局、三菱さんはビーチクラフトに商売の権利、型とかを含め、全部お売りになったと聞いています。飛行機のビジネスに取り組むときは相当の決断が要ります。その中で今回は政府の支援がありますが、基本的には主体的に三菱重工さんが決断をしたと思います。30~40年スパンで考えないといけないビジネスですから、決断をし取り組まれたということです。私どもも国からお金をもらう機関ですので、このような国策プロジェクトに対しては、研究設備の資源をできるだけ投入して支援するという形でやっており、過去の教訓に学ぶということも含め一生懸命やっています。
もちろんリスクはあります。しかし、つい最近、100機の受注があったと伺いました。これからも幾つか受注の話が出てくると私どもは信じていますが、それでも投下資金を回収するには20年かかるものですので、息長くやっていかないといけません。短期で考えてできるようなビジネスではないと私どもは見ています。私どももできることをやって、お手伝いをしていく所存です。

<日本の航空産業へのサポート状況について>
参加者:JAXAの範疇でないかもしれませんが、昔は技術の日産、営業のトヨタと言われ、今になってみると結果的にはトヨタがはるかに繁栄してしまったというようなことで、例えば飛行機でもメンテナンスといったサポートの網が民間機においては、まだまだ日本は十分ではないところがすごく影響をしているのではないかと思います。例えばエアバスがボーイングの領域に入ってきたときに、もちろん、技術的に優れたものもあったのですが、やはりそういった販売力で、今でいうEUなどを巻き込んでやっていきました。日本の場合、そういったところがほとんどなく、せっかくよい飛行機をつくっても、十分に生かされていないのではないかと思いますけれども、その辺はいかがですか。
石川:もちろん、三菱さんは、民間機のビジネスは初めてに近いという自己認識をされ、一生懸命やられています。整備の拠点の問題も十分認識をされています。
飛行機というのはややこしくて、一旦つくった以上は整備の拠点は持ち続けなければいけないという事実があります。スウェーデンの会社と組んでヨーロッパの整備ネットワークをつくるとか、いろいろな報道がされています。多分単独では難しいのですが、少なくともボーイング社とは整備について協定あるいは協定の前段階があるやに聞いており、三菱さんでできないところは協力を仰ぐことになるだろうと思っています。営業については努力をされ、その結果、今回の大型受注という形で実ったと思います。