JAXAタウンミーティング

「第37回JAXAタウンミーティング」 at 開国博Y150(平成21年8月23日開催)
会場で出された意見について



第二部「Living and working in space」で出された意見



<宇宙医学におけるストレス対策について>
参加者: 宇宙医学の話の中で、精神の部分、ストレス対策への応用とあったのですが、具体的にどのようなことかもう少し詳しく聞きたいと思います。
向井:閉鎖環境に置かれる身からのストレスもありますし、重力のない環境に置かれている中でのストレス、また緊急事態が起こる可能性もあるなど多種多様なストレスがあります。それと、文化の違う人たちが集まっているため、異文化・多文化といったストレスマネージメントも精神心理の中で宇宙飛行士に教えます。さらにリーダーシップとかフォロアーシップ、よくリーダーシップという言葉は聞きますが、チームとしてリーダーとフォロアーがきちんとしているのが、いいチームです。たとえば宇宙飛行士のサバイバル訓練には、海上サバイバルとか、雪上のサバイバル、陸上のサバイバルがあります。単に生活するためのサバイバルだけをやっているのではなく、そのチームがどうやってチームワークを持って、限られた資源、限られた現状で一番よいことをやるかという精神心理の訓練に使っています。また、精神心理の医者たちが、宇宙飛行士のリクエストに応じて話をしたり、家族と話をさせたりと様々な対応をしています。

<宇宙での研究について>
参加者:宇宙医学について聞きたいのですが、例えば日本のウイルスとか風邪の菌とかを実際に宇宙に持っていき、宇宙でどのように変わっていくかという研究はしているのですか。
向井:我々の体にはかなり常在菌がいて、その常在菌が宇宙に行ったとき、宇宙の環境、重力がない、放射線を浴びるなど、今まではよい菌であるとされていたものが少し変わってしまったり、人間も免疫力が落ちてきます。これは盾と矛の組み合わせと同じで、人間と微生物がどのように付き合っているか、どの時点で今まで付き合っていた微生物が病気をもたらすかに関して研究をしています。今の新型インフルエンザをわざわざ宇宙にもっていって、菌がどうなるかという研究はしていませんが、新しい薬品をつくるという意味では、病気を治すための薬に関して、タンパク質の結晶をつくって、どういう部分がどのように効いてくるかというメカニズムを解明する研究はしています。

<宇宙飛行士のリーダーの資質について>
参加者:ケネディー宇宙センターに施設見学に行ったときに2回キャプテンになった宇宙飛行士の話を聞いて非常に感動したのですが、いろいろな文化の背景があったり、いろいろな専門がある人々を束ねるキャプテンという人は、どのような立場の人なのかということと、あと、2週間ですと、その期間にチームワークとか絆とか、どのように結び付いていくのかということをお聞きしたいと思います。
向井:キャプテンという資質は、オーケストラで言うと、コンダクターみたいな人だと思います。オーケストラでもそうですが、指揮を振る人というのは、自分もできる楽器があって、いろいろな楽器の本当のよさを全部引きだし、チームとしての色合いを出していく、それができる人たちがキャプテンになると思います。
それから、宇宙飛行士の場合、やはりチームワークがよくないときにはミッションが達成できません。ミッションというのは、たとえば3か月宇宙に行ったら、これをやりなさいという任務が与えられ、1足す1を3、4にしなければいけないという意識をもっているので、議論をしつつ、チームとしては、まとまるプロの集団だと思います。

<宇宙での生活について>
参加者:今日の話のテーマは、リビング・アンド・ワーキング・イン・スペースということでしたが、ワーキングという点については地球でできないような活動が、宇宙ではできてすばらしいと思うのですが、リビングという点について、少しよくわからなかったのでお聞きしたいと思います。
たとえばSFでは、宇宙で人が生活し、日常的に生活するような環境が設定されていますが、私としては、あくまで宇宙は地球と対比してより地球がわかるような場としてあると思います。あくまで私たちの故郷は地球であって、日常的に宇宙に住むことは余りイメージできないのですが、リビングというのは、一時的に生活するのか、あるいは一生生活するような環境をつくることが大切なのか、その辺についてお聞きしたいと思います。
向井:私のときで2週間、現在の宇宙ステーションでは半年くらいの滞在ですから、みんな家は地球なので地球に帰ってきます。ゆくゆくはコロニーという形でつくっていくにしても、月面基地というのは地球をベースにつくることになると思いますし、火星の探査も同じことだと思います。
私たちは地球で育まれているので、重力のない世界で生活するのはすごく不便です。私は重力が生活していく上では必要だと思います。今、研究で面白いところは、重力が一体どのくらい必要なのかということです。今まで宇宙に行って、重力のない、無重力の世界での研究はやってきていますが、たとえば、月面の6分の1Gの世界での研究はしていません。月面へは12人の人間しか行っていませんし、しかも当時は探査だからこうした研究を行っているわけではありません。
私たちは1Gで生きていますが、もし0.5Gだったら、体重が今の半分になります。体が重いから動けない人も半分の重さになったら動ける人はたくさんいると思いますが、本当の意味でどのくらいの重力が一番いいかはわかりません。少し重力が軽いほうが細胞の分裂は早くなると言われています。そこが今後の研究の動向で、私たちがどのくらいで重力を感じ、どのくらいの重力が必要ということがわかってきたら、宇宙の一つの生活の環境として、1Gで生活したい人は、地球で生活すればいいと思います。例えば重量挙げの選手は、地球の1Gの中で運動し、少し重くなってきたら0.5Gくらいのところにある、コロニー的な半永久的な施設に住むという形で、重力を変えられて選べる、そういう時代になると思います。

<宇宙医学へのアプローチ方法について>
参加者:私は現在大学生で、宇宙医学の研究を志しています。宇宙医学として研究していくためには、どのようなアプローチ方法があるかという点において、学生にとってはなかなか敷居が高いことだと考えています。学生たちに提案できるような宇宙医学へのアプローチ方法を教えていただければと思います。
向井:宇宙医学も宇宙飛行士もそうですが、宇宙飛行士になるための学校はないし、宇宙医学だけを教えている学校もありません。
地球も実は宇宙です。私はワーキング・イン・スペースという、仕事場が宇宙という言葉を自分のモットーとして仕事をしてきましたが、その意味は、ここも宇宙、宇宙も宇宙、地球というのは宇宙の特殊環境、地球の環境を宇宙の地球と言っているわけです。
地球も宇宙の一環ですから、まずは、医学であれば地球上で自分の専門分野、たとえば私は心臓外科とか、生理学とか、救急医療を専門にしてきました。自分がこの地球上でできることを宇宙という環境でつくるべきだと思います。
ですから、医学生であれば、まず、医学の覚えなければならないことや患者さんに対しての治療など、やらなければいけないことをまず勉強し、自分の専門を持って、専門の中でどのように宇宙に貢献できるか、そして、そのことを地球上に貢献できるかという形で進んでいけばよいと思います。
宇宙飛行士も同じで、今の自分ができる最大限のことをする、それを1つのチャンスだと考えて行うと、そこから自分の道は、出口がないように思えても、必ず出口が見えてくると思います。まず、目標を考えて、そこに行くためには、5年後にはどうする、3年後にはどうする、だったら1年後にはどうする、明日はどうすると考えていけばよいのではと思います。

<宇宙人・UFOの存在について>
参加者:9歳になる女の子がいますが、その子どもの質問に答えられなかったので、是非向井さんに答えをいただきたいと思いますが、宇宙人はいますか、また、UFOは本当にいますか。
向井:UFOというのはUnidentified Flying Object、要するに未確認飛行物体です。未確認のものは確認できないから未確認なので、それを証明するのは、非常に難しいです。宇宙人に関しては、子どもたちへは、「やはり宇宙人はいると思う。だって私たちが宇宙人だから。」と答えています。地球だけど地球という宇宙の中の、本当にここにしかこのような環境がないから私たちは生きていられるわけで、この環境で生きているすばらしい宇宙人ではないかと思います。
立川:まず、太陽は我々が知っている天の川銀河系に何個あると思いますか。1000億個あるそうです。だから、その中に惑星として地球と同じようなものがありそうだという想像はつくと思います。
さらに、宇宙はもっと広くて、天の川銀河のような銀河が何個あるかというと、今、1000億個ほどあると言われています。1000億かける1000億ですから、単位がありません。その中に地球があるわけですから、ほかにも当然あるのではないかと科学者は予想しています。ただし、これは向井さんが言ったように調べられない。余りにも遠過ぎて、多分、人間が調べようと思ったら寿命が1億年とか2億年ないと調べられない問題でして、いると理解していただければよいかと思います。

<宇宙飛行士になるには>
参加者:6歳の男の子から、宇宙に行くにはどうしたらいいかと聞かれ、わからないと言っているのですが、この点について教えてもらえますか。
向井:宇宙飛行士に必要なことは4つあると思います。
まず、自分が宇宙に行きたいという意志と、宇宙に行って何をするかといったことを明確にできる、専門・得意な分野を持つことだと思います。
2つ目が、やはり人とのコミュニケーション、これは語学の話だけではなく、コミュニケーション能力というのがすごく重要で、相手がどういうことを思い、自分がどうしたらいいのか、たとえば子どもなら、みんなと遊ぶ、そういった中から学び、会話能力、コミュニケーション能力ができるのではないか、つまり意思の疎通が大事だと思います。
3つ目は、これは宇宙飛行士だけに限らず、どの仕事でも同じですが勉強だけではなく、文武両道、体を鍛える機会があれば運動をし、好き嫌いをなくして、健康な体を若いうちにつくってください。
4つ目が一番大事なのですが、宇宙飛行士は一人で仕事をしているわけではなく、やはりチームワーク、宇宙飛行士も大きなチームの中の1人として働いているため、チームとして、一生懸命頑張る人が2人集まったら、3人分、4人分になるようなチームワークをつくっていかなければなりません。
得意な分野を持つこと、コミュニケーション能力を持つこと、それと健康な体をつくることと、チームとして働くこと、この4つが宇宙飛行士として大事かと思います。

<日本の宇宙開発の予算について>
参加者:日本の宇宙開発の予算が非常に少ないことを常に残念に思っており、文科省はどうすれば予算を増やしてくれるのか、あるいはJAXA自らかせげばいいのか、財源なくして政策なしと言っていましたが、この点について理事長に是非聞きたいと思います。
立川:やはり宇宙開発も予算あっての話です。舘部長が説明したように、JAXAはNASAの予算の10分の1です。そのため、10分の1のことしかできないわけですが、成果として見ると、我々としては10分の1以上の成果を上げていると自負しているところです。しかし、自負していても仕方がないので、世界へ是非貢献していきたいと思っています。そのためには、もう少し日本の宇宙予算も増やしてもらいたいと、関係者皆思っており、そのお願いはしています。ただ、日本政府は、世界的に最も借金の多い国ですので、借金を抱えながらそんなにお金を使えないというのが国の一貫した発言です。
JAXAとしては、昨年、宇宙基本法を作ってもらい今年の予算は結構伸びたわけです。10%くらい伸びていますので、是非今後もこの調子で少し増やしてもらい、おそらく2倍くらいにしないと、有人の打ち上げ能力を自力で持つということは不可能だと思います。是非、日本の政策判断を方向転換をしてもらい、アメリカのように10倍までとは言わないので、2倍から3倍にしてもらうと日本の宇宙開発もより進んで世界にも貢献できるのではと思います。
我々も日本だけで、すべてのことができるとはとても思っていません。アメリカのNASAでさえ、これからの月探査あるいは火星探査はアメリカだけでできるとは言っていません。国際的な協調で是非やりたいと言っていますので、日本も独自で全部やるのではなく、むしろ国際競争の中で、日本の役割を果たしながら人類全体としての成果を上げたらいいのではと思っています。