JAXAタウンミーティング

「第30回JAXAタウンミーティング」 in 館林 (平成20年9月13日開催)
会場で出された意見について



<(1)スペースデブリへのISSの対応について (2)ISS内の重力分布について (3)シャトル後継機について>
参加者:(1)ISSは宇宙ごみの関係で軌道を修正するという話を聞いたのですが、ISSの宇宙ごみへの対応はどのようになっているのでしょうか。
(2)ISS内の重力分布図が提示されました。私は全部均一だと思っていたたのですが、微妙に違うのはISSの重さの関係なのでしょうか。
(3)今のスペースシャトルは2010年で退役するということで、今後ロシアの宇宙船に乗っていかれると聞きましたが、今、グルジアの関係でアメリカとロシアの関係がいろいろと問題になっていますが、この辺はどのようになっているのでしょうか。
白木:(1)宇宙のゴミ、デブリですが、人間が打ち上げたロケットの破片や人工衛星の使えなくなったものが、宇宙にごみになって飛んでいます。宇宙ステーションでは人間が滞在しているモジュールは、宇宙のごみに対して防御できるようにしてあります。どういう基準でやっているかといいますと、直径が1cm以下のごみに対しては、モジュールによろいを着せてあります。バンパーというのですが、バンパーで1cm以下のものが当たっても貫通しないような設計にしてあります。10cm以上のものは、アメリカの方ですべて地上からトレースしています。したがって、10cm以上の大物が飛んでいる軌道がすべて把握されてまして、もしそういったものがステーションにぶつかるという情報が入った場合は、宇宙ステーションの軌道を4kmぐらい上げたり下げたりして、それをかわすような運用になっています。問題は、1cm以上10cm以下のごみです。これは、地球からも観測できないし、防御しようとすると非常に大規模なバンパーになって、モジュールが打ち上がらないという問題が出てきますので、そういったものに対しては、もし当たって穴が開いた場合でも、人間がすぐに退避できるような運用にしようということで、確率的には非常に小さいのですが、一応そういう原則でモジュールなりステーションが設計されています。
(2)重力分布ですが、ステーションの重力と地球の重力とが引き合っていますので、ステーションの重心が一番、無重力に近い状態になっています。したがって、ステーションの重心から外れていきますと、先ほどコンター(等高線)という楕円状の図が書いてありましたが、あの重心からの距離に比例して、だんだん重力環境が大きくなります。10万分の1から徐々に1万分の1になるような感じで、コンターが動いていきます。
(3)ソユーズの問題です。アメリカは、2004年1月にブッシュ大統領が、宇宙ステーションは2010年までに完成させます。ステーションの完成と合わせてスペースシャトルも退役させます。それが終わったら、次は月の有人基地をつくろうと述べており、アメリカはステーションの完成と合わせてシャトルを退役させようとしています。ところが、次のアメリカの有人船、オリオンあるいはオライオンは、2015年から運航と言ってますので、4年ちょっとブラックアウトが出てきます。今、宇宙ステーション計画で人間を輸送することに関してはアメリカが責任を負っていますので、スペースシャトルがなくなった後は、ロシアからソユーズを購入して、日本人、アメリカ人、ヨーロッパ人を含めて、ソユーズで運ぶことにしています。国際的な政治の世界では、グルジア問題等がありまして、少しきな臭いところもありますが、政治問題は政治問題であり、アメリカがお金を出してロシアから買う分には、そんなに問題はないと私自身は理解しています。アメリカ国内でソユーズを買おうとすると、アメリカの議会の承認が要ります。今のところ2011年12月まではロシアからソユーズを買うことに関しては議会の承認が得られているのですが、こういった政治情勢があることから、2012年以降もソユーズを買うことについての承認を、アメリカの国内問題として解決すべき問題として、NASAが一生懸命やっています。いろんな問題があるものの、この問題はアメリカにとっては国際パートナーである日本、ヨーロッパ、カナダに迷惑をかけることになるし、アメリカ自身も宇宙飛行士が行けなくなりますので、近いうちに解決の光が見えてくるものだと思っています。

<インターネットにおける衛星画像の公開について>
参加者:「だいち」の画像がありましたが、あれはインターネットでは落ちないですよね。私は、衛星画像とかが好きなのですが、インターネットである程度の全国の画像は公開されてもいいのではないかと思います。そういうものを公開することによって、こういうことをやっているんだ、というJAXAの広報にもなると思います。
広報部長:データそのものは公開していますが、一般目的で使う、例えば商業用に使うとかパンフレットで使うということであれば、今のところは有償による配布になります。Yahooでは、先ほどの「だいち」で撮った映像を公開しています。データそのものは決まった範囲であれば、比較的簡単に手に入るようになっています。ただ、実際に1シーンのデータをダウンロードすると、時間も相当かかると思うのでインターネットではなく郵送で配布しています。

<宇宙開発による環境破壊の可能性について>
参加者:ロケットを打ち上げるということは、地球の温暖化に関連性(エンジンから高熱が発生する)があるのでしょうか。もしあるならばどのようにそれを抑制しようとしているのでしょうか。最近、金を払えば新婚旅行として宇宙に行けるというPRをするところが出てきています。今から30年前、私が南極に行くのは環境汚染になるのでだめだと主張したら、みんなに笑われたのですが、今は規制されていますよね。それと同じように、宇宙でも環境保全のために新婚旅行ぐらいで行くのはやめさせるというルールづくりは今、進んでいるのでしょうか。
広報部長:地球に降り注ぐ太陽のエネルギーと、瞬間的にロケットがつくるエネルギーを比べると、比べものになりませんので、ロケットが打ち上がるときの熱だけで温暖化になることはないと思います。
参加者:でも数が増えていけば影響が出てくるわけでしょう。昔は航空機も数が少なかったから影響がなかったわけですが、今は影響があります。ロケットについては航空機ほどは影響が出ないと思いますが。
広報部長:今、おっしゃったように、ものすごい数の自動車、あるいは飛行機に比べると、数が非常に少ないので、高熱を出すロケットだからといって、温暖化にはそんなに影響はないと考えています。
白木:もう一つ補足しますと、航空機もジェットエンジンから排出される高温ガスがありますが、航空機あるいは車の場合、CO2という炭酸ガスを排出することで、地球上を炭酸ガスが覆って、太陽から入ってきた熱が逃げないということから温暖化がでてきています。ロケットエンジンも燃えている状態では非常に高温ガスが出ますが、それは先ほど言いましたように、地球に降り注ぐ太陽に比べると、物すごく微少な量だと考えております。新婚旅行とかで宇宙に行くことを、民間企業とかもいろいろやっていると聞いています。将来的には、例えば1,000万円か2,000万円ぐらいで宇宙に行ける日が来るという話も聞いています。これはどういうことかといいますと、先ほど言いましたように宇宙は100km以上の高さです。100kmの軌道をぐるぐる回るということは、物すごいエネルギーが要るということでお金もかかるわけです。1,000万円とか2,000万円で行く場合は、例えば一旦地球上から飛行機のように上がって、100km上空の宇宙空間を数十秒間体験してすぐにおりてくる、そういうフライトを、今、皆さんが提案しており、ベンチャー企業がそういう手段を開発しようとしています。それに比べますと、ロケットでまともに宇宙に行く例として、ソユーズ宇宙船の搭乗席を売ってますが、この場合、10日間宇宙に行くには、25億円ぐらい出せば行ける時代ではありますが、一部のお金持ちが行っているという状況です。ごみの問題もありましたが、宇宙は外側は真空ですので、中に乗った人が何か物を捨てるということはできません。窓を開ければ、宇宙船の中の空気が抜けてしまうので、そこからごみが出てくることはありません。先ほどデブリの話がありましたが、ロケットが上がって、軌道上を飛んでいるうちに相互にぶつかってごみになる。あるいは人工衛星が使えなくなった状態でぶつかって、小さなごみになるということもあります。それに関しては、国連の下部の機関で、ロケットだとか人工衛星の残骸をできるだけ発生させないように設計しようという運動が行われています。宇宙ごみをできるだけ出さない、あるいは出た場合も、宇宙船の寿命が終わったら宇宙のもっと高いところに飛んでいく、または残骸は早いうちに地上に落下させるようにする、といったことは設計時にも考えられるようになってきています。

<植物と重力について>
参加者:植物と重力についてお尋ねしたいです。高等植物は人間と同じように重力を感じる機構を持っていると聞きます。植物は、重力によって、枝は空に根は下に延びていくということです。植物が重力を感じるときには、でんぷんによってどうにかしていると最近聞きましたが、どのように重力を感じているのかということをお尋ねしたいと思います。
向井:私たちが目をつぶって体を傾けると、耳の中に耳石という小さな石があり、その石があるため、体が前、後ろ、左、右、どちらに傾いたかわかります。耳石がうまくジャイロの役割をしているんです。これと同じ機構が根っこの先にあります。先ほどでんぷん(スターチ)とおっしゃってましたが、そういったものが固まって、石の役割をしているんです。どうもその石が先端の細胞に、自分の石がどこにあるか、壁のどこを押しているのかということを知らせることで、どちらの方向に重力が働いているか、植物がわかる仕組みになっているようです。ですから実験で、透き通った根っこだとよくわかるんですが、ゼリーのようなところに根っこを生やすと、縦に植物を生やしたものを、横にしてやると、根っこだけは地球の中心に向かって90度下に向いてしまうんです。そのため、根っこの先に重力を感知するところがあることがわかります。茎のところは、どちらかというと光の方に向かっていきます。ですから、モヤシなどを栽培するときに、太陽の光を当てずに栽培すると、白い茎が出ると思うんですが、それに光を当てると葉緑素が出てきて青くなる。それとともに、光の方向に向かって葉っぱの辺りがぐっと伸びていきます。私もカイワレを宇宙に持って行って、どんなふうに生えるのかと思ってやってみたのですが、根っこは宇宙に行くと重さがないので、てんでんばらばらに延びていきますが、茎の部分は、蛍光灯でもいいんですが、光のある方向に行きます。それと、根っこは水のある方向に行くということも言われているんです。ここら辺は、私がジョン・グレンさんと飛んだSTS-95のときに、キュウリの種を持って行って、キュウリの根っこの石の部分をぐちゃぐちゃと壊したのですが、そうすると、そのような機構が壊れてしまうので、どのように引っくり返しても根っこがそちらの方に向かわなくなってしまったり、あるいはサバイバルで水が欲しいから、水の方に根っこがはっていくというようなこともあります。ですから、人間の機構と同じように、植物もちゃんと重力を感知する機構を持っています。

<(1)地上での疾病への宇宙医学の応用について (2)障害を持った子ども達の宇宙への関わり方について>
参加者:(1)ジョン・グレンさんと宇宙に行って、ジョン・グレンさんの体を診察した向井さんにぜひ聞きたいと思っていたのですが、脳血管障害とか重度障害とかにかかり、リハビリが必要になった人に対するケアに関して、微少重力の影響から快復する訓練というものがあると思うのですが、そういうもので得られた知見がリハビリに生かせるんではないかと。そう考えておられるとは思うのですが、どのように知見が生かされているのでしょうか。
(2)JAXAの施設公開に行ったりすると、子どもたちに将来の夢ということで、がんばって宇宙飛行士になりませんかという話がよくありますが、障害を持ったお子さんには、今は行きにくいという状況があります。障害を持った方が、これから宇宙にどう関わるかということについて、JAXAさん、飛行士を経験した向井さんから見ると、どのような意見をお持ちなのかということをお聞きしたいと思います。
向井:(1)リハビリなんですけれども、現在は水泳などで、宇宙にいたときと同じぐらいの期間、地球上でリハビリをすることで、普通の生活に戻れる。これはちゃんと調べた場合ですね。飛行士たちは、自分たちの気分の中では、もう大丈夫、1、2週間で元に戻ったと言っているのですが、サイエンスで調べてみると、やはり行ったのと同じぐらいのリハビリ期間は必要ではないかと言われています。短期間で戻してあげられるようなリハビリの方法を考えなければいけないので、運動の方法、栄養の観点、そういった観点から総合的に現在は調べている段階です。リハビリ自体が必ずしもすぐに役に立つかということはわかっていません。ただもう一つ、リハビリとは違うかもしれないですが、マイクロニューログラム法といって、非常に細かい、細い神経1本に電極を刺して、刺した神経の活動を記録する、記録するだけではなくて、神経に電気信号を送ることで、その先の筋肉を動かしてやるという方法があります。私たちの研究ですとガマアンコウという魚の耳の中の耳石から悩に、どういうふうに神経のシグナル、信号が伝わるかを調べたのですが、それは現在は信号だけを取り出しているのですが、ゆくゆく研究者がやりたかったことは、信号を取り出した後に、今度は逆に抹消の方を司っている神経に、ある程度の電流を流すことで、例えば脊髄損傷のようなもので、つながりがなくなったような場合でも、電気刺激を加えることによって動かすことができるのではないかと考えています。ですから、やはりここら辺は、いろんな医療機関だとか、そういうところで起こっているようなことと一緒にやることによって、宇宙でやろうとしていたことが、うまく有機的につながっていくんだと思います。
(2)先ほどの夢の話、障害を持った方の話ですが、ここは重力1G、体重50kgの人は50kgですね。でも、もし0.5Gだったら体重は25kgになるわけです。そうすると、地球上だと体が自分の力では支えられなくて動けないと言っている人が、0.5Gだったら動けるかもしれない。障害ということも定義が変わってきてしまうんです。今はまだ宇宙に行く人の数が少ない、ロケットの座席が少ない、だからみんなが行けないです。さきほど新婚旅行程度で宇宙に行くな、という話もありましたが、多くの人がいろんなところに行くことで、また考え方も変わり、そういったものを地球上に持って帰ってくるということで、私たちの世界がよくなると思うので、障害がある人でもゆくゆくは座席がたくさんできて、ロケットの安全性がよくなって、途中で逃げなければいけなくなる確率が少なくなればどんどん宇宙に行けると思うんです。例えば今の飛行機は、障害があるから乗れないというわけではないですよね。それは飛行機の安全性が高くなっているから、障害があっても乗れるんです。大きな宇宙ステーションがあって、そういう中で生活するのであれば、0.5Gだったら十分に動ける。そうしたら、将来本当に大きなコロニーのようなものをつくって、遠心力をうまく使って、中心から離れたところは0.6G、0.7G、または1Gというふうにしておけば、地球上で障害があって体を動かすのに人の助けが必要だという人は、宇宙をリハビリの場所として0.5Gなら十分動ける。では、次に0.6Gで動いて練習しよう、その次に0.7Gに慣れよう。それで1Gで地球に帰りたかったら帰ればいい。また一方、オリンピックの選手は、もしかしたら1Gで重量上げを練習するよりは、1.5Gぐらいのところで重量上げを練習した方が、短時間で筋肉のトレーニングになりますよね。そういうふうに、宇宙に「きぼう」のような宇宙ステーションがあるということは、そこの重力レベルをゼロに近くできてしまう。そうすると、遠心力、人工重力をうまく組み合わせると、0.1でも0.2でも0.5でも、1Gという地球上の重力よりも小さい重力加速度が十分にできる。それがこの研究施設の一番の目玉なんです。今まで重力を変えて研究ができなかったものが、ここの軌道上に行くと重力を変えていろんな研究ができてしまう。そこから、これからいろんなことに広がっていくんじゃないかと信じています。

<宇宙での感覚について>
参加者:地球上の常識が、100kmを超えたところで常識でなくなってしまうということをすごく感じました。以前に、毛利さんでしたか、太陽が輝いているのに宇宙は真っ暗だと、太陽が輝いて明るいのは地球だけで宇宙は真っ暗だ、と話しているのを聞きました。また、宇宙に出てしまうと、上下もないという話も聞いたのですが、私どもは体験したことがないので何とも言えないのですが、地球の常識が通じなくなる世界で、常識を保つというのは難しいといいますか、先ほど宇宙では定義が変わってしまうというお話があったのですが、定義が変わってしまうようなところで、地球の常識が通じない部分で活動するというのは、難しいような気がするのですが、その辺はどうなのでしょうか。
向井:常識の話なんですが、重さがない世界、例えばここで物を落とす、というよりも手を離すとこう下に行きますよね。手を離したらひゅっと上に行くとはだれも思わないですね。それは重力があるからです。そうすると上下が決まっています。宇宙に行って手を離すと、基本的には物はあるところにそのままとどまる。上に上がりもしないし、落ちもしないという世界ですね。こういう世界というのは変わっているかもしれないけれども、人間はものすごく変わったものに対して、そこが人が住める環境ならば、適応していく力はものすごくあります。それはそれなりに、これはこれなりに、と、自分の頭の中でルールを見つけていくわけです。たとえば私も初めに宇宙に行ったときに、天井と床がよくわからなくて、天井に見えるのに感覚は天井じゃない。引っくり返ると床と見えるのに、床が天井のような気分がする。そういうところで生活していくとどうなるか。自分の周りがどうあれ、自分の頭が付いている方が自分にとって上というふうに、自分の中で基準を決め始めてしまうんですね。それでやり始めると、初めに気持ち悪くなっていたのが、だんだん宇宙酔いとかそういういうのもなくなってしまう。それは、それなりに心配しなくてもできてくるんです。これは、宇宙と地球の違いだけではなくて、常識って、ときどき日本の常識は世界の非常識とか、そういうことを言うときがあるでしょう。文化ってそれと同じで、文化が違ったり、言葉が違ったり、生活の環境が違ったり、そういうところに行くと、私はこう思っていたのに、この人たちは違うんだ、ということが多々あると思います。これが異文化なんです。文化というのは国の違いだけではなくて、職業の違い、例えば先生をしていた人の職業とか、軍人の職業とか、それでずっと生活していると、職業から来る使命感とか、考え方だとか、常識というのが決まってしまうわけです。そういうものも、結局、場所を変えてみることによって、そうか、私はこういうふうに考えていたけれども、こちら側から見るとこう見えるんだなと感じるわけです。例えばこのビン、皆さんから見ると縦に見えますね。でも、こうやって見たら丸ですよね。だから、同じようなものでも見方を変えることによって形が違ってしまう。これは、別に宇宙と地球にかかわらず、日常生活でいろいろあります。私が無重力を一番初めに経験したのは、宇宙に行く前に飛行機で行った訓練でですが、そのときに、例えば私が機材のピンを外そうと思って、ドライバーをくるくるやると、私たちは通常は自分の体重を使っていているので、ピンが、相手が回って当たり前と思う。だけれども、体の重さがないと、ピンが固定されていれば、こう回すと体の方が回ってしまう。ドアなどを開けるときに、ドア開けたって、ドアは開くので当たり前だと思っているでしょう。でも、ドアの方からすれば、私たちを回してしまうわけです。そういうふうに宇宙を飛んでみて、結局いつもいつも自分の方からこうあるべきだ、こうなるべきだと見ていた自分に気が付いて、そうではなくて、重力のない世界では必ずしも絶対的なものはない。ものって、相対的に自分と相手先があって起こることなんだということがすごくよくわかったんです。自分が押せば、壁を押せば壁は自分を押す。コンピュータの操作をすれば、コンピュータのキーボードが落ちるのではなくて、キーボードの方が私を押し上げる。そういうふうに観点を変えて見ることで、人の話を聞くときであれば立場を変えて考えることで、そういう考え方もあったんだ、と感じるというのは、随分自分も勉強になりました。いろんな人と会うこと、あるいは新しいこと、違うことに会うということは非常に疲れる、それに適応するのは大変なんだけれども、でも人間は適応できるから、違ったことからいろんなことを学んで、もし同じようなことを思っているようなことがあれば、それを大事にしてやっていくと、多分、国際協力だとか、知らない人同士とかで仲間をつくるとか、そういうことはうまくできていくんじゃないのかなと勉強しました。

<(1)「きぼう」に3台のカメラを搭載してもらいたい要望について (2)宇宙で見える白い光について>
参加者:(1)子どもたちと関わっていると、宇宙に対しての関心というのはそんなにないんですね。そこで今度の「きぼう」にカメラを3台くっ付けてもらいたいのです。何で3台かというと、1つはISSがこの上空をとおるとき、そこから地球を見た映像をリアルタイムで送ってきてくれないか。そうすれば、自分の生きているところはどういうところなのか見られるわけです。何も若い人だけではなくて年寄りも、宇宙から自分達の住んでいるところを見たことはないと思いますから、そういう意味で、宇宙に対しての啓蒙をするという形で、カメラを付けられないかと思います。勿論それには、国境等、いろんなものがないわけですけれども、例えば日本の上空だったら、この群馬県館林市がどんなふうに見えるのか、そういうことができればと思います。見方はいろいろだと思います。10人いたら10人、いろんな感じで景色を見ることができると思います。2番目は「きぼう」の中を映してもらいたい。今、何の実験をしているかというだけでもいいと思うんですけれども、宇宙に行ってこんな実験をしている、向井さんのお話にもあったように、こういうこともあるんだ、ということを見られるようにならないかと思います。もう一つは、先ほども出ていましたけれども、私たちは人の撮った宇宙を見るしかないわけです。宇宙から宇宙をみた。そういった映像も送ってもらいたい。例えば赤色とか青色とか、実際に見るとあんなふうに見えるんだということがわかると、子どもたちに、または大人たちにも夢を与えられるんではないかと思います。
(2)向井さんに聞きたいんですけれども、宇宙船に乗ると白い光が見えると言います。これはほんとなのでしょうか。どういうふうに見えるのかを聞きたいと思います。
白木:(1)今、言われましたことは、至極もっともなことで、「きぼう」という日本の領土のようなものが上に建設されました。そこの存在感を皆さんに紹介しようとすると、今、言われたように、3つぐらいカメラがあるといいなと私自身も思っています。実際に、これをどういう形で実現できるのか、カメラもいろいろ種類がありますので、できるだけ日本の市販品の高性能なものを、しかもハイビジョンでできたらいいんではないかということで、我々も検討は始めています。ただそれがリアルタイムで送れるかどうか、幾つか技術的な問題もありますので、言われた趣旨はよく理解して、そういったことが実現できるように努力していきたいと思っています。
向井:(2)白い光というのは、多分視神経に放射線が当たったときのことを言ってらっしゃるのかなと思うんですけれども、地球上だと、よくごちんとだれかとぶつかって、目から火花が出ているような漫画の絵がありますね。あれと同じように、宇宙には地球上には入ってこないような放射線があるので、頭の中の視神経にそれがぶつかると、エネルギーが高いものですから、刺激して光のように見える、パチンという感じで見える、そういうものかと思うんですが、白い線というのは、頭の中の光ではないかと思います。

<「宇宙医学」の癌対策への応用について>
参加者:「きぼう」への希望というのは、先ほど宇宙医学ということをお話してくださいましたけれども、そのお話は大変わかりやすくて、理解できました。その中で、もう一つ広げていただけるようでしたら、大変個人的な話になるんですが、私どもの健康の中で、他の病気もいろいろありますが、癌ということが、家族にも、知人にも、以前よりも多くなっているような気がするんです。千秋さんのお話を、今の癌の研究に当てはめますと、地球上で立派な先生方がいろいろ研究されていると思うのですが、新聞記事などで、立派な方が病気のために研究途中で、志半ばで亡くなられた例を読んだのですが、そういった癌についても、宇宙医学の研究対象にする、という希望はできないでしょうか。
向井:宇宙医学の中の癌研究に関しては、例えば放射線をかなり飛行士が浴びるので、放射線の1つの影響で、やはり癌の発生率が高くなるんです。それを防御、予防しなければいけないという観点から、癌がどうしてできるのかというメカニズム、そこも一つの研究対象です。癌というのは、切れてしまったDNAとかがうまく修復できなくて、修復できないものが変にコピーされて、どんどん増えていってしまうということがあります。先ほど私がメダカを使った研究などを紹介しましたが、メダカというのはものすごいバイオリソースと言われていて、遺伝子が全部わかっているんです。そういったものをうまく使い、放射線影響などからDNAが切れてしまったものは修復ができない、できてないなら、いっそ、その細胞は除いてしまおう、あるいは修復できないものをうまく修復して普通にしてやろう、そういう研究というのは癌の研究にいくのではないかと思います。もう一つ、バイオテクノロジーの分野で、例えば癌が体の中に出てくると、インターロイキンといって細胞から癌を排除しようというものが出てくるんです。そういうような物質の細胞をどんどん出す機能というのは、宇宙の方がどうも地球上よりか高いようなんです。ですからゆくゆく、薬剤だと、薬のどこが効いていて、どういうところがうまく再生できるのかという部分の青写真を宇宙で撮ってくれば、そういったものは地球上で大量生産することができると思います。バイオテクノロジーの観点から1つ。それと放射線医学の観点から1つ。今、癌で考えられるのはそんなところです。

<地球外生命体について>
参加者:宇宙航空研究開発機構とは余り関係ないと思うんですが、地球以外にほかの生命体があると思われますか。以前、町村官房長官が、私はいると信じているという発言をされたんですが、よろしくお願いします。
白木:個人的な考えでお話しさせていただきます。この広い宇宙ですので、どこかにいるであろうと私は思っています。全くの個人的な感想です。
向井:個人的な感想で今と同じなんですが、科学というのは、「ある」というものを証明する方が、「ない」というのを証明するより易しいんですね。「ない」ということを証明するためには、全部調べた結果「ない」といえる。「ある」というのは、たまたま見つかれば「ある」ということで、私たちは全部を調べて「ない」と言ってるわけではないので、否定はできないという答えになると思います。

<宇宙でものを食べることについて>
参加者:前から不思議に思っていたんですけれども、「きぼう」への希望ではないんですが、宇宙で物を食べるとき、無重力のときに物を飲み込む嚥下というのが、地球上の時とどういうふうに違うのか、自然に飲み込めるのか。それからもう一つは味です。宇宙食もいろいろ開発されていますけれども、味がおいしいと思えるのか、もうこれしかないから、ということで食べているのか。それから、私は何年も前に、宇宙でギョウザを食べてほしいと思いましたけれども、臭いがあるものはだめとお聞きしたんですが、いかがなものでしょうか。その3点を教えてください。
向井:嚥下に関しては、今おっしゃっていた心配というのは、60年代、初めに人間が行ったときには、私、ジョン・グレンと飛んでいるからわかるんですけれども、ジョン・グレンが行ったときには、もう唾すら飲み込めなくて、もしかしたら唾で窒息してしまうかもしれない、だから唾が出てきたときには、病院で吸引するような吸引器で唾を吸い取らなければいけない。そんなふうに考えて行ったようです。ところが、行ってみると、やはり逆立ちしてもものが飲み込めるということと同じで、ちゃんと飲み込めます。だから、宇宙医学の進歩というのは、初めに行くときはだれにもわからない。行ってみた結果、幾つもほかのことがわかってきて、一歩前進という形で、これまでずっと歴史を重ねてきています。ですから、飲み込むことは大丈夫です。味に関しては、やはり閉鎖空間で、鼻も詰まってきてしまいますし、やはりめり張りのある味がおいしく感じました。甘いなら甘い、辛いなら辛い、スパイスが効いているものがおいしく感じました。ギョウザに関しては、臭いということなんですが、例えばギョウザもいろいろあって、臭みの基のニンニクとかそういうものを入れないか、臭いの少ないニンニクなど、違うものを使えばできるわけですね。だから、ギョウザというのはいろんなものを皮で包んでいるわけなので、そういう意味では、それ自体が宇宙食に向いていないというわけではなくて、幾らでも持って行ける余地はあると思います。

<宇宙での実験の教育利用について>
参加者:宇宙で実験したことを、高校の物理学の時間に使えるような提供をされていますか。というのは、私にとっては作用反作用を理解することがすごく難しかったわけです。ところが、向井さんのお話を伺うと、そのようなことが非常にクリティカルに見えるわけです。「きぼう」などでそういう実験をいっぱいして、それを中学・高校の現場に提供すれば、とてもいいのではないのでしょうか。もし作って提供しているならば、なるべく多くの実験をして、是非教育現場に下ろしていただければと思いますが、いかがでしょうか。
広報部長:私ども広報部ではいろんな教材をつくっています。あと、相模原に宇宙教育センターというのがありまして、そこから講師を派遣して、宇宙に関するいろんなことを講義しています。我々の教材はお渡しすることはできます。必要があれば、是非私どものホームページにアクセスしてください。特に宇宙教育センターというところがやっていますので、教育に参加されたいという方もいらっしゃると思うので、是非アクセスしていただければありがたいと思います。

<(1)宇宙飛行士になった動機について (2)メダカの実験について>
参加者:(1)非常に素朴な質問で恐縮なんですけれども、まず向井千秋さんが宇宙飛行士になろうと思われた動機を聞かせていただけないでしょうか。若い人たちの中にもそういう思いを持っている人もいるかもしれませんけれども、向井さんの場合はどうだったのかということが1つです。
(2)先ほどメダカの実験の話がありまして、これは日本でしかできないとおっしゃったように思うんですけれども、どうして日本にしかできないのか、ということについてお伺いしたいと思います。
向井:(1)私は地球が見たかったんです。自分の故郷を、自分の目で見てみたいという気持ちはだれでもあると思うんです。ブループラネット、自分が住んでいる地球というのは、どういう星なのかというのを目で見たかった。それで宇宙飛行士になったんです。当時、宇宙開発事業団で宇宙飛行士の募集が出たときに、募集の要項を見て驚きました。そこに書いてあったことは、日本人の宇宙飛行士を募集すると書いてあった。当時、私が小さいころからいろんな人が飛びましたけれども、ガガーリン、女性なら私はカモメと言ったテレシコワ、ああいうことは、アメリカとかロシアとか、大きな二大大国の軍人しかできないと思っていました。ところが80年代、日本人が宇宙に行く。すごいと思いました。見たら、日本は宇宙環境を利用して、そこで地球上でできない仕事をしたいので、地球上で働いている科学者、技術者、そういう人を宇宙に送りたい、と書いてあったんです。えっ、軍人じゃないんだと驚きました。そのときに私は医者として10年ぐらい働いていましたから、その間に80年代、20世紀の科学技術はこんなに進歩して、普通の人が宇宙に行って、地球上の仕事をして来れる。そういう時代が来たんだと思ったときに、地球はどうやって見えるんだろう、自分の故郷の地球を1回でもいいから見てみたい、多分それを見ると自分の考え方も深くなるだろうし、視野も広がるだろう。そう思って実行しました。やってみると、無重力が体にどういう影響があるかとか、医学的な観点から非常に面白いことがたくさんあったんです。どういう人が飛行士になるのか、どういう影響があるから、どう治療していくのか、老後はどうするのか、いろいろありました。そういう思いでなりました。
(2)メダカは、どうも純系のメダカと言って、遺伝子的に非常にきれいな遺伝子の系統があって、それはすごく解析が難しいらしいんですが、メダカは日本の魚で、お家芸で、既に全部遺伝子の系列がわかっているんだそうです。そういうものを持っている。諸外国は、ゼブラフィッシュといって違う魚を持っているんですが、それは雑種の魚なので、何かが起こってきても、必ずしもそのことで遺伝子とすぐに組み合わせて解析するのは難しいそうなんです。私が聞いてみると、どうもメダカを使ってやるのは非常に難しいので、もっと簡単にできるゼブラフィッシュという魚を諸外国は使ってやっています。そういう意味で、お家芸で、既に地上で十分なデータがあるメダカを使って、宇宙で起こってきたことを調べると、すぐに解析ができるわけです。地上のデータがあるからです。だから、日本は非常に有利です。なおかつ、装置が日本の装置なので、やはり日本の研究者の人たちがいい研究テーマを出していただければ、日本の研究者が優先して使えるわけです。そういう意味で、2010年のメダカの研究というのは非常に期待しています。

<(1)衛星を利用した災害時の通信インフラについて (2)実体験型教育プログラムについて>
参加者:(1)「だいち」と「きぼう」の使い方についてなんですけれども、災害の観測をしてデータを解析しているのはすばらしいことだと思っているんですけれども、更にここを進めて、災害時に通信インフラが一切なくなってしまう、孤立する状況が群馬だと起こり得ると思うんですけれども、そこに常にネットワークを構築できるようなシステムは、これからできないのでしょうか。
(2)将来的なことなんですけれども、私が小さいころに、スペースキャンプというNASAの募集があって、私はそれに両親に頼み込んで行かせてもらって、それこそわくわくした覚えがあります。それと同じようなことを、自分は今、親になったので、私も子どもに是非させてあげたいんですけれども、なかなか日本からはそういう声が聞こえてこないです。実体験を通して教えるようなシステムは考えていらっしゃらないかというのが質問です。
広報部長:(1)通信インフラですが、特に災害時、先ほど「きずな」という衛星が出てきたと思うんですが、この「きずな」という衛星は、まさに災害時に使えるように考えていまして、JAXA内に防災利用システム室を設置しており、何かあったときにアンテナを持っていけば通信できるというのを目指しています。また、最近のデータですから予防に役立てられると考えています。この前の8月31日に東京都合同総合防災訓練には「きく8号」が実験に参加しています。このように通信衛星が防災に関するデータを送るのに役立てられるだろうし、そして、「だいち」で撮ったデータを、できるだけそのままの形で現地の対策室に送るということを構想していますけれども、将来的にどうするかということは、自治体との話になると思います。
参加者:言葉は違いますけれども「きずな」を使って、災害対策本部とやり取りするのではなくて、個人的にというか、企業というか、パソコンや無線などを持っていれば、だれでも情報が手に入るような、例えばFMラジオのようにならないかなと思いました。
広報部長:「きずな」の前に上がった「きく8号」は携帯端末に情報を送ることを考えていました。災害時には携帯電話のような大きさの端末でも使えることを想定しています。それが1点目のお答えです。ただ、パソコンで映し出されるような大量のデータは送るのは難しいと思います。
(2)2点目のスペースキャンプ。NASAでもスペースキャンプはもうやってないと思いますけれども、残念ながらこういう活動が弱いところがございます。我々としても、何とかこういう活動を強化していきたいとは思っています。今、小中学生を対象とした宇宙学校、高校生、大学生を対象としたサイエンスキャンプをやっていますので、そういう体験に参加していただければと思います。

<宇宙における再生医学について>
参加者:再生医学に興味があるんですけれども、宇宙空間で無重力状態のときに、細胞を分化させるような実験をカエルか何かでやったと思うんですけれども、そういったものの今後の展望と、あとは京都大学でiPS細胞の特許を取りましたけれども、そういたったものを「きぼう」の実験棟の中で実験する予定などはあるんですか。
向井:再生医学というのは、今、ものすごく注目を浴びている分野なんですけれども、「きぼう」の中にはクリーンベンチとか細胞培養装置、またそれをサポートするための冷蔵庫、冷凍庫、いろんなものがあります。ということで、2、3年に1回必ず「きぼう」を使ってやるいろんな研究が公募されますので、そういった中にどんどん出てくると思います。これまで、細胞培養というのはかなりやっているんですが、例えば先ほど言った細胞から分離するインターロイキンの話ですとか、分裂がどれぐらい早くなるかとか、そういった基礎的なデータはやってきています。ただ、iPS細胞とか、再生そのもの自体に着眼したものはまだやってないと思いますので、そういう意味ではやれるチャンスができてきているので、重力がないところで再生医療のための細胞培養などをやることが、意義のあるテーマがもしあれば、是非考えて出していただければと思います。

<宇宙教育の推進体制について>
参加者:今、自分は大学生で、地元は群馬ですが、鹿児島で宇宙工学を学んでいます。鹿児島に行って気づいたんですけれども、群馬は結構、科学館とか天文台とか、宇宙教育関連でいい用途になるような施設はあるんですけれども、YACをはじめ、全体を統括するような、宇宙教育を推進するようなところがないような気がします。セミナーをJAXAが開くときも、関東地区だと東京に行ってしまって、群馬で宇宙教育を進めたいと思っても、どうも地域間格差が出てしまうのです。鹿児島県では県内の宇宙少年団を県庁の方で統括していたりするんですけれども、その辺できればうまく、宇宙教育、自然科学教育で地域間格差をなくすため、地元の私たちができることと、JAXAとして宇宙教育センターの方でできることを教えていただきたいと思います。
広報部長:確かに県によってばらばらでして、全くそういう活動がされてない県と、ものすごく熱心にやられている県があります。鹿児島は打ち上げ場が2つありますので、宇宙に関しては理解があります。できれば我々も全国で活動している団体と協力していきたい、と、宇宙教育センター並びに我々広報部を含めて課題として考えています。今後、どういうことができるか、はっきりとした回答は今のところできませんが、考えていきたいと思います。広報部としてはタウンミーティングのような行事を行って、地元を含めて皆さんの理解を深めていただく活動も進めていますので、是非こういう機会に参加していただきたいと思っています。

<メンタルヘルス面における宇宙医学について>
参加者:先ほど、宇宙医学の地球への応用という画面のところで、特に右下にメンタルヘルスというところがあったのですが、非常に我々は今、精神的に不安定な状態で、日本では鬱がすごく増えていると聞いています。精神的な面での今後の対応の部分、先ほど紹介がなかったと思いますが、是非メンタルヘルスの対策についてお話いただければありがたいと思います。
向井:メンタルヘルスというのはものすごく大事なことで、今までミールに1年以上いた飛行士が何で帰ってきたか、どうしてこれ以上宇宙にいられなかったか。それは体がおかしくなってというよりは、もうこれ以上いたくない。メンタルの部分がかなり大きいんです。そういうことで、メンタルというのは非常に重要です。私たちがどういうふうに宇宙飛行士をいいメンタルな状況にしているかというと、勿論ストレスマネージメントとか、こういうことが起こるので、こういうふうに対処しようというような座学、講義、そういったこともありますし、トレーニングをつくっているんです。特に長期滞在する宇宙飛行士に対して、リーダーシップというのはこうあるべきということ、そして女房役になってリーダーについていく人たちも必要ですし、コミュニケーションはこういうふうにうまくとりましょう。異文化の人にはこういうふうに対処しましょう、ということをまとめて、トレーニングを、行くまでにやります。それでもやはり軌道上に行ったときにストレスになってしまうと困るので、現在、我々が開発しているものは、自分で自分のストレスを判断できるような装置を開発しています。テレビゲームのように、ちょっとやってみると、今日のストレス度はこれぐらい、自分ではわかってないかもしれないけれども、かなり疲れが出ているから少し寝なさいとか、昨日は睡眠取れたと思っているかもしれないけれども、よく取れてないのでちゃんと寝なさいというような指示が出てくるような、そういうモニタリングシステムを今、開発しています。今年の3月末ぐらいにできて、それはハンドレベルの小さなものですから、できればゆくゆく宇宙に持って行って調べたいと思っています。そういうメンタルヘルスに関しては、職場のメンタルヘルスも非常に大きな問題になっているので、多分宇宙でうんと狭い空間の中で起こってきている問題点を洗い出してみたり、それの対処法を調べることで、私たちが飛行士に対してやっている訓練の方法は、地球上でいろんな人が使っていく意味で役立っていくのではないかと思っています。うちには精神科医とか心理学者がいるので、軌道上で飛行士に困ったことがあれば、遠隔医療、人に聞かれないように、飛行士としか話ができないようなラインがちゃんとありますので、そういうところで相談することもできるシステムも遠隔医療を使ってやろうとしています。

<宇宙ツツジについて>
参加者:簡単な質問でございますけれども、向井さんが宇宙に行くときに館林のツツジの種を持っていった思います。今、司会者の方が実験棟でやってもらいたいことを、と言ってましたが、もしできるなら、そのツツジを実験棟の中で花が咲かせられるかどうか、いかがなものかお伺いしたいと思います。
向井:そうですね。館林のツツジというのは非常に有名ですから、世界に誇るものがあると思うので、こちらにもすばらしいツツジ研究所がありますから、そのツツジ研究所の方からそういった研究テーマを出していただいて、一緒にやっていけるような機会があればいいと思います。是非考えてみてください。これからどんどん「きぼう」を使って、こんな研究ができるから募集します、という応募が、インターネットなり新聞なりでどんどん出てくると思いますので、そういったことに興味がある皆さんは是非新聞なりインターネットなりで調べて、いろんな分野で「きぼう」を利用していけますので、是非そういう機会をお使いいただければと思います。よろしくお願いいたします。