JAXAタウンミーティング

「第28回JAXAタウンミーティング」in 稲沢(平成20年8月17日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙をめざせ-日本の有人宇宙活動」で出された意見



<国際宇宙ステーションと宇宙のゴミについて>
参加者:宇宙のゴミと国際宇宙ステーションの関係でお聞きしたいんですが、今まで宇宙のゴミから被害を受けたことがあるんでしょうか。
土井:宇宙のゴミは大きな問題になりつつあります。非常に幸運なことに国際宇宙ステーションがある高度350kmというのはまだ大気が少し残っているため、ゴミは大気の抵抗を受けて数週間から1か月以内ぐらいで地球に落ちてきます。地球の大気のお陰できれいになっている安全な領域です。
ただ私たちのミッションでも、スペースシャトルの窓にゴミだと思うものが衝突しています。小さなゴミだったのでスペースシャトルには全く問題なかったですけれども、そういう小さなゴミが衝突することは何回か起こってきています。
この宇宙のゴミが非常に問題になるのは、大気がなくなる高度1000km以上です。一度できたゴミは100年、1000年のオーダーで地球の周りを回っています。現在これらを綺麗にする方法がないため、私たちはこれ以上宇宙のゴミを出さないようにしています。JAXAで設計している人工衛星も宇宙のゴミを出さない設計で作っています。

<国際宇宙ステーションの高度を保つ方法について>
参加者:関連でお聞きしたいのですが、小さなゴミは大気の摩擦によって地球の引力に引っ張られて燃えて尽きると言うことですが、国際宇宙ステーションの高度を維持するために何か力を加えて高度を保っているということなんでしょうか。引力に引っ張られて、大気の影響を受けるとなると、国際宇宙ステーションもどんどん高度を下げていくような気がします。
土井:はい。そのとおりです。国際宇宙ステーションも何もしなければどんどん高度が下がってきます。私たちは2つの方法で、この高度を上げています。
1つは、スペースシャトルがドッキングしているときに、スペースシャトルの燃料を使って高度を上げています。もう1つは、ロシアのプログレス宇宙船と言う貨物船を打ち上げて、国際宇宙ステーションにドッキングした後、この貨物船の燃料、ロケットを使って、高度を常に上げるようにしています。

<国際宇宙ステーションの国籍について>
参加者:そもそも国際宇宙ステーションの国籍はどこなのですか。それから、国際宇宙ステーションの中で、発見やノウハウなどができた場合、それらの所属はどうなるのでしょうか。
土井:国際宇宙ステーションは、国際協力という形で1つの国が持っていることにはなりません。ですからリソースの全てを各国で共有することになります。ただ各国個別のモジュールがあります。例えばアメリカ、ESA(ヨーロッパ)、日本、ロシアのモジュールがありますが、それぞれのモジュールは提供した国に帰属し、その中の運用もその国が責任を持つことになっています。ですから、日本のモジュールは、私たちJAXAが責任を持って運用しています。
もうひとつ、国際宇宙ステーションの中での発見のことですが、これからいろんな実験やまた特許なども取れるような活動が行われる予定です。JAXAが支援している科学実験の結果は、実験提案者とJAXAに帰属します。また、企業が費用を全額負担して実験を行う場合は、その実験結果はすべてその企業に帰属することになります。そうするとその企業が実験から特許を取得することも可能になり、宇宙ステーションを商業利用に使うことも可能になるわけですね。

<国際宇宙ステーションと月、火星探査の重要性について>
参加者:『日経サイエンス』という雑誌に、次の宇宙の50年について、国際宇宙ステーションはそれほど重要ではなくて、火星とか月の方が重要ということが書いてありましたが、それについてどう思いますか。
土井:私は、国際宇宙ステーションは世界にとって非常に重要なものだと思っています。もちろん日本にとっても非常に重要です。恐らくその記事はアメリカの見方をしているのだと思います。10年前、アメリカ、ヨーロッパ、日本、カナダ、ロシアが共同して国際宇宙ステーションを始めて、それからステーションが完成して、20年経って次の計画をどうするかということで、アメリカは月、火星探査というものを選びました。それはこの国際宇宙ステーションの重要性がなくなったということではありません。
日本は今やっと自分のモジュールができたところですから、これからいろいろ活用しようとしています。そうすることによって、日本の有人宇宙活動は次の段階にいけると思います。ここではライフサイエンス、材料科学の実験、また宇宙事業や文化・芸術的な活動もしようとしています。
また、この国際宇宙ステーションの運用を通して、私たちは人間が宇宙で生活していくときの新しいノウハウを学んでいる最中です。ですから、国際宇宙ステーションは、私たち日本にとって非常に重要なプロジェクトだと思います。これをうまくやることによって、日本の宇宙開発は次の段階に進んでいけると思います。

<宇宙から見た地球の写真について>
参加者:宇宙から見た地球の写真を見せていただけないでしょうか。ぐるっと一周するところを見せていただきたいと思います。
土井:申し訳ないですが、今回私が持って来ているのはこの写真だけになります。JAXAのインターネットのウェブサイトに行くと、これ以外にも、いろいろ宇宙から撮った写真とか、実際にミッションのときに撮ったビデオなどが直接見られますので、ぜひJAXAのウェブサイトに行ってご覧になってみてください。

<日本の宇宙往還機、有人機の開発、安全性について>
参加者:一昔前のNALの飛鳥や、NASDAのHOPEなど、無人でしたけれど将来は有人になるかもという夢のモデル開発をされていましたが、JAXAになってから非常にしりつぼみになって、目立たなくなってきたという感じがしています。
今後、宇宙開発に関して、日本の技術を最大限生かして、前へ前へ出て行くべきだと思うのですが、スペースシャトルやソユーズに頼らず、宇宙往還機、有人機の開発を日本で前向きにチャレンジしていただきたいと思っているのですがいかがでしょうか。
土井:日本の有人輸送機の開発への応援、どうもありがとうございます。私自身、日本に有人用の輸送機は必要だと思っています。というのは、日本の有人宇宙開発が始まって20年になりますが、これまでずっとアメリカのスペースシャトルやロシアのソユーズで飛行してきました。けれども、やはり自分の国で宇宙で何かやろうとしたときに、その足がないというのは非常にまどろっこしいし、国際的に非常に弱い立場になります。
日本の宇宙ステーション計画が、これほど遅れた原因の一つは、アメリカ、ロシアの国の事情によります。日本に自分で宇宙へ行ける足があったら、もっと早く日本の宇宙開発が進むし、もっといろいろな貢献が世界にできるのではないかと思っています。
広報部長:我々JAXAは、まずは国際宇宙ステーションをしっかりやって、有人技術を掴むことを考えました。続いて、例えばH-IIBを打ち上げて、それを基点に有人に拡張できれば、有人の手段を持つことができるわけです。まずは技術を蓄積しておいて、その後に有人のロケットを開発するか、しないかという議論が出てくるかと思います。まずは技術を蓄積することが大事だと思います。
HOPEの構想が始まったときも、もちろん有人という考え方はありましたけれども、まず無人で着実に技術を習得した上で有人化する方向で進めていこうと考えていました。
土井:ひとつ皆さんにお聞きしたかったのは、お金の問題です。スペースシャトルは1機3,000億円します。それをアメリカは5機作っていて、すごい投資をしています。それだけの投資をして日本がやるべきかどうか、それがひとつ目の質問です。
もうひとつは、日本人の心の問題、安全に対する考え方です。宇宙に行くとするとやはり危険が伴います。昔、旅客機ができた頃も飛ぶということに関して危険だったと思いますが、段々と安全性が高くなって、今は誰もが自由に飛行機に乗って海外に行くことができるようになりました。
宇宙に行くということは、航空機が飛び始めた段階に相当します。これからどんどん行こうすると、どうしても事故が起こってきます。それはゼロにすることは不可能です。新聞記事から、事故が起こったときには、止めてしまえという声が聞こえてくる時があります。ですから宇宙で有人をやるときはいろいろなハードルがあります。それに対して、皆さんがどうお考えになっているのかお聞かせ願えればと思います。
石川:確かにHOPEの後、非常に目立つ形での研究開発は残念ながらやってきていないですが、有人のロケット、飛行体につながる研究は、少しずつですが着々とやっています。例えば水素を使って極超音速機にもなるし、宇宙往還機の一段になるようなエンジンの研究など、急にお金があるから作ってみろと言われても、技術がなければできません。
そういうことで、資源、お金が限られている中で、工夫して少しずつ進めています。お金の議論が出てきたときに、間に合わないのは非常に残念なので、できる範囲で進めております。
参加者:最後にお願いですが、まず無人からと言う話ですが、目標は高く信頼性が求められる有人を目標に開発しないと、そこまで到達できないと思います。是非そういった意味で応援しておりますので、頑張っていただきたいと思います。
現在も航空事故は残念ながらなくならなっていませんし、スペースシャトルも2件ほど事故がありましたし、こういったことに関しての危険性はゼロにはならないと思っています。私個人的には、そういったことを乗り越えて、是非頑張っていただきたい、応援していきたいと思っておりますので、そういった国民の応援団が増えるように広報を頑張っていただければと思います。

<「きぼう」での宇宙実験について>
参加者:この10年で、筑波や播磨の放射光の研究施設を使用できる機会がかなり増えてきて、それで研究が進む、あるいは重要性がわかってくることがあります。
きぼうでの実験についても、これまでは無重力の実験をやろうと思っても一応募集があったのは見ていたのですがほとんど通りませんでした。これから日本の家ができて研究ができるようになってくると、その頻度がかなり上がってきます。今後、着実にきぼうの実験が成果を上げられることを祈念しております。
土井:実際にきぼうの実験はこの8月にもうそろそろ開始される予定です。最初は流体物流の実験ですが、ライフサイエンスの実験も始まります。今後新しい宇宙実験も募集されるはずですので、ぜひ応募していただいて、きぼうを活用していただければと思います。

<国際宇宙ステーションから見た宇宙・地球について>
参加者:国際宇宙ステーションから見た宇宙の見え方と、飛行機からの見え方というのは、全然違うものですか。
土井:宇宙は昼間でも空は真っ暗です。この写真の背景に海が写っていて雲が浮いていますが、その間に薄い青く光り輝いている大気層があります。国際宇宙ステーションから見る地球の地平線は、本当に円く曲がっているんです。その全体を見て、私自身が非常に感動したのは、大気層の青い光です。それが非常に純粋な青い、透き通った光を放って輝いています。その中で私たちが生きていることに非常に感動しました。これは飛行機では上に上っても空が真っ暗になるまでは行けないと思いますので、なかなか難しいのではないかと思います。
ぜひ、皆さんにもこういう経験をしていただきたいと思います。アメリカではベンチャー企業によって、国際宇宙ステーションへ行くわけではないのですが、地上100kmまで行って弾道飛行でちょっと滞在して戻ってくるというようなサービスがもうすぐ始まります。これはまだお金がかかりますが、そういう旅行も可能になりつつあるということだけお知らせしておきたいと思います。
参加者:先ほどの有人機の安全性についての話に戻りますが、やはり日本は、例えば挑戦して亡くなられたときに、安全性は当然優先するんですけれども、日本の風土的にそれでやめてしまおうというのがあると思います。
それに対して、そういうものを乗り越える過程をPRしたり、特に小さな子どもの段階からそういう教育をしていくというのが、個人的には重要だと思っています。
土井:アポロ計画で人類が初めて月面に行ったのを見ていた世代は、宇宙にすごく興味があると思います。今はインターネット時代になって、興味がいろいろ分散してしまって、若い人たちがあまり宇宙に興味を持っていないとか、いろいろな話を聞きます。けれども、実際私たちJAXAは国際宇宙ステーションを使って、宇宙がもっと皆さんの身近なものになるようにしたいんです。ですから誰もがこの宇宙ステーション、きぼうから恩恵を受けられて、何とかして皆さんに宇宙を身近に感じてほしいと思っています。

<宇宙開発の国民へのメリットについて>
参加者:最近のJAXAの活動は、昔H-II等で失敗していたときと比べて、私から見ても少ない予算の中ですごく着実にやっていると思います。
ただ、日本は世界的に見てもっと宇宙開発する必要性があると思っています。中東やロシアに比べて日本は資源がないわけですから、宇宙開発しなければ、100年後日本はやっていけないのではと心配しています。そう考えると予算も1桁足りないと思います。そのぐらいしていかないと月に拠点を作るということは絶対に無理です。
予算を増やすためには、財政難の中、今宇宙開発に投資することが50年後、100年後、ひょっとしたら10年後、30年後にメリットがあると、実利の点をもっとアピールする必要があります。例えば軌道エレベーターを作ることによって、逆にロケットは要らないとか、例えば月に拠点を作って火星の資源を日本に持ってくるとか、エネルギー開発するとか、そういうアピールが見えないのが私としては非常に歯がゆいです。もっと大きな目で、はっきりとビジョンをJAXAから提示していただきたいと思います。
土井:JAXAの予算を1桁増やしても良いのではないかという話ですけれども、現在予算約1,800億円で、日本人1人辺り1,700円払っている計算ですけれども、17,000円払ってもいいですか。また、日本は資源がないから宇宙開発しなければいけないというご意見ですが、宇宙に行っても資源が増えるわけではないので、科学技術的な技術力を持つということでよろしいですか。
参加者:30年後、50年後に、ただで宇宙旅行に行かせてくれるんだったら、3倍出してもいいです。
資源と言っているのは、具体的に言うと太陽エネルギーや原子力発電などのエネルギー関係や、それ以外にも月や小惑星に鉱物が眠っていて、宇宙に工場があって、その資源を使って製品をつくって、それを地球に輸入するような、それは日本にとってはすごくメリットがあるんではないかと個人的には思っています。
石川:宇宙でのエネルギーについては、30年、40年かかる話ですが、太陽光発電衛星といいますか、ものすごく大きな膜面を宇宙に展開して太陽電池にすると、かなりの電力を発電して地球上へ送ることができると言う着想があります。その中では、エネルギーを地球へ送り戻すことや、大きな膜面をつくるのが非常に難しいんですが、それぞれについて研究は少しずつ進めております。

<ロボット技術による宇宙開発ついて>
参加者:日本の技術として、耐熱パネルの交換などロボットなどでやれるところもあると思います。そういったものをJAXAで今どう考えているのか、またどういう技術が進んでいるのかお聞きしたいと思います。
土井:確かに日本のロボット技術というのは、非常に優れています。国際宇宙ステーションでも、自動運転が可能なロボットアームなど、いわゆるロボットの要素を使った技術というのは、実際に利用され始めています。また、きぼうにもロボットアームが付いています。これは、来年、船外にいろんな実験装置を置ける船外実験パレットが付きますが、そのパレットに実験装置を移設するために、日本のロボットアームが使われます。
また、人間の形はしていないですが、別の見方をすると国際宇宙ステーション自体がロボットです。太陽電池パネルがあり、それから軌道制御のロケットエンジンがあり、人が住むところがあって、環境が維持されていて、Tシャツに短パン姿で仕事ができるような、そういう環境になっています。そういうものをすべてモニターして維持しているのが、実は3台のメインコンピュータなんです。きぼうには2台のメインコンピュータが付いています。それらがお互いに通信しながら、自動的に運用している。何か問題があったときでも、コンピュータのセンサーによって煙とか気圧の低下などを全部感知して、すべて処理されるようになっています。そういう意味で、普通の私たちが感じる鉄腕アトムのようなロボットではないんですけれども、宇宙ステーションはロボット化されていると言っていいかと思います。
将来的には、船外活動、あれは非常に危険な活動なので、そういうものを人間型のロボットか、カメラに手が付いたような球形のロボットが出てくる時代が、もうそろそろ来てもいいんではないかという気がします。

<日本の今の技術でどこまでできるか>
参加者:今、日本はH-IIAで人工衛星を打ち上げる実力はあります。しかしH-IIAより大きなものでないと、スペースシャトルのようなものは打ち上げられないだろうと思っています。日本にそれらを本当に乗り越えるだけの力、あるいは金が付いて回るかという話になると、非常に難しい気がするんですが、その辺はどうお考えでしょうか。
土井:H-IIAロケットの話が出ましたけれども、中小程度のカプセルで、2人か3人の宇宙飛行士を宇宙空間に打ち上げる能力はあります。ただ人を打ち上げるだけで、重い荷物を持っていくことはできないですけれども、宇宙に行くということはできます。ただ問題になるのは安全性です。いわゆる有人のロケットというのは100回打ち上げて1回失敗するぐらいの程度でないと実用にならないんです。それが10回打ち上げて1回失敗するようではなかなか難しい。それが1番ネックになります。H-IIAはまだまだ回数的にその安全性を確立するところまで行っていません。
日本は今H-IIBいうH-IIAの改良型を開発していて、その打ち上げが来年になります。ここでもやはり問題になるのは、打ち上げるH-IIBが人を打ち上げるだけの信頼性が確立できるかというところです。何回も打ち上げて経験を積むか、または革新的な技術で安全性が確認できないといけない。それをやるために、一体何を、どのぐらいやらなければいけないかということは、まだはっきりしていません。今それに向かって少しずつ私たちは勉強し、進んでいこうとしているところです。
無人機と有人機、同じようなエンジンを使って、同じような機体で打ち上げていますけれども、実際、有人機を打ち上げるとすると、打ち上げるまでの軌道が全然無人機とは違ってきます。というのは、有人機を打ち上げようとしたときには、どんな飛行の速度・高度でも、何か問題が起こったときに、有人のカプセルが脱出できるようにしないといけないからです。無人機をすぐに有人機にできるかというと、そうでもありません。有人機の開発のためには、これからいろいろ勉強していかなければいけないところがたくさんあります。
参加者:JAXAがいろいろ研究開発されている部分が、やがて日本の産業界へプラスにするんだという思いがないといけないのではないかという気がします。宇宙開発だけではなくて、それが産業、経済にすごくプラスの影響をするんだと、そういうことを表に出してPRしながら拡大していかないとだめではないかという気がします
土井:私自身も、宇宙技術というのは日本にとって新しい産業を開くかぎになると思うし、また人類にとって、宇宙に行くということは、文明を次の段階に進めるために、是非やるべきことではないかと信じております。どうもありがとうございます。