JAXAタウンミーティング

「第26回JAXAタウンミーティング」 in 出雲(平成20年7月12日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙開発の世界における位置付けと将来展望」で出された意見



<国産ロケットによる有人宇宙開発について>
参加者:一時、気象衛星「ひまわり」が耐用年数が切れるぐらいまで、観測衛星打ち上げの失敗が続いたり、中国が有人飛行を成功させているのに、まだ日本はスペースシャトルを借りて行かないといけないという現状を、一国民としては、どうしてこんなに差が付くのかという気がします。予算が足りないと言ったらそれまでなのかもしれないですが、何か諸外国から置いていかれるような気が最近していました。宇宙開発というのは各国の権益、利益がすごく対立する場だと思うんですが、是非ともアメリカのNASAの力を借りるのではなくて、是非国産のロケットで、有人の開発も含めて、できるような体制を早急にやっていただければと思うんですが、その予定はあるのかこの機会にお伺いしたいと思います。
間宮:ありがとうございます。皆さんの御支援がないと、なかなか予算が付かない、予算が付かなければやりたいこともできないという循環があります。先ほど言いましたように、7年連続して計500億円予算が落ちたわけです。それを今、取り戻すべく努力しているところです。そのためにも皆さんのいろんな御理解、御支援が必要だということで、こういったタウンミーティングで全国を歩いているということです。
したがって、我々に頑張れと言っていただくのもいいんですが、是非力を持っている政治家であるとか、そういうところに直接訴えかけて、つまり選挙民として意見を言っていただかないと、我々に頑張れと言われても、我々が行く先は財務省であり政治家のところなわけです。そういう人たちが耳を傾けるのは、皆さんの意見なんです。だから、皆さんの意見をそういうところに届けていただかないと、なかなか予算も増えないという状況にあります。
ただ我々も、いずれ自分の力で宇宙に行きたいと思っていますから、先ほど言いましたように着実にロケットの信頼性を上げていこうとしています。ロケットの信頼性が上がっていけば、有人仕様に近づくわけですから、決して遠回りをしているわけではないということです。

参加者:それでは、中国が2003年に上げたんですけれども、日本はあと何年後ぐらいで可能になるんですか。大体の見通しでいいので教えていただければと思います。
間宮:御承知のとおり、ソ連がスプートニクを上げて、アメリカが60年代末までに人を月に送るとケネディー大統領が言ったわけです。トップが言ったわけです。国全体で動いてものができているわけです。相当国柄が違うわけです。やはり日本で有人をして、万が一人命を失った場合どうなるかということも考えなければいけないわけです。したがって、非常にハンディを負って今、宇宙開発をやっているわけです。
だから、国のトップが国の命運をかけてやると、しかも金は幾ら使ってもいいとなれば、それは目標を立ててやればできるわけです。その目標を立てるには、我々が意思決定するわけではなく、先に国が意思決定しなければいけない。そういう構造をよく御理解いただきたいと思います。

<宇宙開発と予算の制約について>
参加者:通常、我々民間が企業活動をする中では、限られた予算と、限られたリソースの中で、最大限努力をするということが、まず我々の使命だと思って日ごろ仕事をしているわけです。そういった意味でトップの決断とか、お金に依存し過ぎるところを感じますので、その辺りはどうでしょう。
それは非常に苦しい嘆きだと思いますし、日ごろ努力されているとは思うのですけれども、そこを最初に言われると我々国民としては、だからロケットが落ちてしまうし、そんなのに予算を使っている暇はないのではないかと思ってしまうと思うんです。
間宮:やはり宇宙開発というのは非常に巨大なシステムなんです。ですから、そう簡単にできない、非常に長年かかって、10年、20年かかって、ある1つの技術ができるという世界なんです。非常にお金も要るというのが現実なんです。それを無視して議論しても仕方がないわけで、そういう意味において我々が長期ビジョンをつくったときは、ある程度の有人を含めたお金がいただけたら、技術的にはできますという絵を描いているわけです。技術屋の良心として描いているわけです。したがって、これを全部認めると決定してもらえれば、これは実現しますという公約なんです。
ただ、今、財政が厳しい中で、そんなに宇宙ばかりやってはおれないという議論も当然あるわけです。そうすると、ではどれぐらいの財源がいただけるんですかと。ある財源が来るならば、ここのところはやめて、こちらを生かしましょうとか、そういう選択の余地を全部入れているのが長期ビジョンなんです。これだけの長期ビジョンはいつだって簡単にできると思うかもしれませんけれども、これを作るのに1年ぐらいかかっているんです。1,700人が1年かけてつくったビジョンでして、これは予算の裏づけがあれば全部技術的にはできますということを言っているわけです。
したがって、あとは国がほかの分野との比較の中で、宇宙にどれだけ財源を割くかという意思決定をしなければいけないわけです。それを受けて、我々としてはベストなソリューションを出していきたいと今、思っております。

<人類及び地球環境のための宇宙開発について>
参加者:この間、サミットがありました。宇宙開発というのは、日本がどうだ、中国がどうだというよりは、地球全体で計画を立てて、宇宙で人類のために何をやるかという全体的な計画の中で、日本は何をしましょうかという考え方の方が、各国が競争して打ち上げといくよりは、いいのではないでしょうか。今、資源の問題とか地球温暖化の問題がありますが、打ち上げるのにもエネルギーが要るわけです。化石燃料とか水素燃料とかいろいろあって、初めは化石燃料でやっておられた。そういったことを考えると、やはり有効に宇宙開発をして、そして将来宇宙から人類のために何を得ようかと。火星に行って、ただ行ったよというのではなく、火星に行って何が人類のためになるかということを、月についても同じなんですが、そういった全体的な、地球人としてどうするかということを考えてほしいです。今、67億人の人口の中では、大変なところもあるわけですから、その中でどうするかということをもっと検討して、有効に財源を使っていただきたいと思います。
今、計画されているのは、そのための一つひとつのステップで、科学は失敗するというのは当然でしょう。宇宙にも随分失敗したごみがあると聞いておりますけれども、私は宇宙は神様がつくられたものと思ってますが、ごみを少なくしてその宇宙をいかに大切にしていくかということが宇宙開発ではないかと思っています。最終的には人類のため、地球環境のためにどう影響するのかということを前提にして宇宙開発を計画していただきたいと思っています。
間宮:非常に大事なポイントだと思っています。今度の長期ビジョンも、そういう意味ではこれまで培ってきた技術で、まず前半の10年は、社会還元をしようということで考えております。そこで宇宙が貢献できるのは何かということで選んだのが、環境と災害なんです。この2つは、日本人だけではなくて世界全体が必要としているもので、まずそこに集中しようということを考えています。
ただ、こういうことができるようになったのも、昔、いわば夢にかけて、ペンシルロケットとかいろんなことをやっている人たちがいたからできるわけです。つまり夢を追いかけていかないと技術が進歩しない。バランスを取って、社会還元と宇宙の探査とかを並行してやっていく。その間で技術をやりとりをして、宇宙探査をやった技術が社会還元に行くし、社会還元でできた技術は宇宙探査に行くということを今、考えています。

<超音速機開発と環境問題について>
参加者:先ほどの方と同じ意見なんですが、日本の位置づけとして、宇宙開発をして、日本の技術だけで宇宙に行くというよりも、世界全体で考えて、日本がその中で何ができるかというふうに考えていく方が効率的で、それこそが私たち宇宙に行けない人たちのためにもなるんではないかと思っています。
野口さん、星出さんのように、世界の人たちと一緒に宇宙に行って研究することができているので、それはそれでよくて、先ほど紹介されましたけれども、地球観測について、日本は世界をリードしていくというふうに話されていたので、そういうビジョンはすごく素敵でいいと思います。
その中で1つ気になるところがあります。極超音速ジェット機の開発を進めるとありますが、これによるオゾン層の破壊とか、そういう問題も懸念されますけれども、こういうことには問題はないんでしょうか。
間宮:オゾン層破壊の話は、確かに深刻です。我々が今、考えているのは環境に優しい技術ということです。世界のどこよりも有毒なガスを出したり、環境を破壊したりしないような技術システムをつくろうということで努力しているわけです。特に極超音速の世界になりますと、液体酸素と液体水素で飛ぶわけです。したがって、出てくるのは水だけなわけです。非常にきれいなエンジンを使おうと思っていますし、今、三菱重工のMRJに供与した技術も、非常に公害の少ない技術で、燃費のいい技術ですし、これから実験機を飛ばそうとしている超音速、これはコンコルドのような飛行機ではなくて、もっと環境に優しい飛行機をつくろうということで、研究をしていますので、そこは十分に配慮しています。
前半の国際協力でやった方がというのは、全くそのとおりで、まさに宇宙ステーションでも、日本が自分の実験室を付けたわけですが、あの実験室は日本だけが使うわけではないんです。各国が使えるような形になっている。つまりお互いがお互いに優れたところを使い合おうという精神が宇宙ステーションです。
更にこれから出て行く月の世界については、アメリカは、自分たちはハイウェイをつくる、月の上での活動は是非みんなでやろうじゃないかと言っている世界なんです。そういう意味で、日本が得意とするロボットであるとか、太陽発電の技術であるとか、そういうものを持ち込んで独自の貢献をしたい。みんなが持ち寄って、1つの人類のための活動をしようと考えております

<宇宙利用について>
参加者:
これから打ち上げられるようなCO2の観測衛星とかを、排出量取引データのアプリケーションとして提供して、何か利潤を得るとか。今、持っていらっしゃるような観測技術を民生利用させて、そこからお金を取っていくような事業は考えてないのでしょうか。今はどちらかというと、打ち上げていく部門が主体の話になっていると思うんですけれども、現状、今お持ちになっているものをアプリケーション化して、そこを切り売りしていってお金を得て、ある程度のものは補填していくような考え方はお持ちではないんでしょうか。
間宮:全くそのとおりで、宇宙ばかり見ているわけにはいかない。地上の問題も解決しなければいけないということでは、宇宙の技術を地上に応用しようということを今、進めております。スピンオフと言われているんです。今日、日進産業という出雲の会社でやっていることを午前中に実際に見てきたんですが、ロケットは打ち上げるときに大気を突き抜けていくんです。そうすると熱を持つ。その熱から中の機器を保護するために断熱ペンキを塗っているわけです。それを地上に下ろして、今、地上の家を断熱構造にしようということで頑張っておられる方がおられます。
あとは水を完全に濾過してしまう。つまりウイルスも通らないような浄水器をつくっています。これは世界中で使っていただけると思います。つまり水はあるけれども、飲めない水があるということが、世の中にかなりあるんです。それがどんな水でも飲める水になるという技術も開発していますし、そういう動きを今どんどん強めて、これまで宇宙に入ったことがないような企業さんが入って来れるようにしようとしています。

<打ち上げ期間の制約について>
参加者:今のロケットの打ち上げの期間なんですけれども、あれは年に2回のシーズンだと覚えています。これは漁業との絡みがあったと思うんですけれども、すべてのシーズンに打ち上げることは可能なように協議はできないものでしょうか。
間宮:日本には伝統的な漁業権というものがありまして、これを何らかの形で保証しなければいけないという事情があります。ですから、今、ロケットを夏と冬の2回打っていますが、夏は台風で船が出れない。冬は海が荒れて船が出れない。その期間だけを打ち上げに使っているのです。これは世界中で日本だけなんです。これは非常に苦しい条件なんですが、我々としてはその中で精一杯頑張って、スケジュール的にぴたっと打てるようにしようという努力をしているのと、よほど特殊な事情があったとき、国益に関することであるときは、少しその期間を広げていただくということで、今、漁業関係者の方々の理解を得ている。ですけれども、365日いつでもというのは、日本ではなかなか難しいと思っています。

<若年層への広報普及活動について>
参加者:宇宙少年団という団体に小学生の息子がお世話になっていて、日々宇宙のことを夢見て過ごしています。子どもたちの姿を見ていると、科学離れというのが言われているのをすごく実感しています。JAXAの予算もだんだん削られてきているという現状をお話いただいてますが、今の子どもたちが将来宇宙を夢見て活動したい。JAXAに入って自分も活動したいとか、そういった夢を持てるような広報活動に予算を少し割いていただいて、東京だけではなく、島根、出雲といった全国津々浦々の子どもたちに、もっと具体的な、子どもにわかりやすいような情報伝達といいますか、広報活動をしていただけるような構想がもしあればお聞かせ願いたいと思います。もし現状としてはなかなか難しいということであれば、是非そういったことも今後の日本の宇宙に対する前向きな姿勢として考えていただけたらと思います。
広報部長:YACの活動を我々は支援しています。最近行っている活動に、職員を、例えばある市全体の小学校に講師として派遣して、講演をやったりしております。今年の6月にも静岡で国際会議がございまして、静岡県内の数十校を回りました。そういう形で、まだ島根の方には来ていませんけれども、是非そういう活動もこれから続けていって、私どもの職員が講師となって、皆さんに宇宙授業の話を展開していきたいと考えております。

参加者:やはり宇宙に興味を持って、本当に自分の人生の進路に向けていくというのは、高校、大学とかだと思います。実際に自分の人生をそこに投入していこうという年齢層への広報活動の取組みは、どうなんでしょうか。
広報部長:私どもの組織の中に、宇宙教育センターというのが相模原にありますが、こちらの1つの取組みとしてコズミック・カレッジという取組みがあります。そちらの方で、中・高校生の学生さんを対象に講演とか、実際に実験をするという活動を進めております。是非そういう機会をとらえていただければいいと思います。ホームページ等も見ていただければありがたいです。

<発展途上国への衛星通信網の整備について>
参加者:宇宙開発は巨大なお金が要るというお話でしたけれども、だからこそ世界競争ではなくて、世界が協力して宇宙開発に取り組んでいけるといいと思いました。特にアフリカなどの地域は、お金がなくてなかなかそういう産業にも入っていけないと思うんですが、そういうところも利益を得ることができたらいいと思いました。
将来的には個人の携帯電話に情報を衛星から下ろすことができるようになるというお話がありました。今、衛星も国によってたくさん打ち上げていると思うんですが、国によって使える衛星は限られるんでしょうか。というのは、例えばアフリカの地域にいて、衛星携帯を持っていても、その国の衛星がないと使えないということになるんでしょうか。それとも、どの国の衛星を使ってでも、どこにいても通話なり受信なりができるんでしょうか。
間宮:いい質問だと思います。今まだ世界中どこでも使える携帯が余り普及していないんです。ただ、それは時間の問題であって、みんな便利な方に動いているわけですから、いつかは世界中で共通に使えるような携帯が普及するわけです。
ただ、最初から世界中を相手にして、システムを組もうと思うと大変なので、我々としてはまずアジアを対象としたシステムを組みたいと思っているんです。アジアというのは、今、世界中で一番災害の被害を受けているところなんです。また人口も多いです。そこで成功させて、それをアフリカに広げていくとか、そういうステップを考えております。
広報部長:国際的には、イリジウムというシステムが民間でありまして、これは全世界共通に使える携帯を目指している、地上の携帯よりもちょっと大きいですけれども、そういうシステムは既にあります。イリジウムというシステムは66個の衛星が宇宙にありまして、これはアメリカの民間会社がつくったシステムです。その衛星の通信回線を使うということで、全世界どこでも使うことができます。日本では、少し高いので入っているお客さんは少ないと思いますけれども、どこでも使えるものは既に市場としてはできあがっています。