JAXAタウンミーティング

「第17回JAXAタウンミーティング」 in 木津川市(平成19年10月20日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙からさぐる宇宙」で出された意見



<γ線天文衛星について>
参加者:X線天文衛星「すざく」、赤外線天文衛星「あかり」、それで今考えている「ASTRO-G」や、運用が終わった電波天文衛星「はるか」がありますが、日本にはまだγ線天文衛星がないと思うのですが。日本ではγ線天文衛星を持つ計画はあるのでしょうか。
阪本:こういったプロジェクトは国際協力でやっています。例えば「すざく」についても日本が主導権を握っていますが、センサー部分はNASAがやっていますし、その他いろんな研究機関が関連しています。それから「あかり」についても欧米、韓国も参加してきています。こういった国際協力でやっているわけです。あと、将来打ち上げる水星の探査機は、日本が磁場を測る装置、ヨーロッパは地形を測る装置ということで相乗りをして、ヨーロッパで打ち上げることになっています。γ線についても国際協力で進めようとしていまして、衛星だけではなくて、ロケットの実験とか気球の実験をいろいろ組み合わせながら進めています。ですからやっていないわけではありません。メジャーパートナーになっているか、あるいは共同研究のような形で入っているのかで若干違いがあります。

<火星探査について>
参加者:金星と水星の探査機の計画はあるんですけれども、一度失敗した火星探査機の計画は、今のところどうでしょうか。
阪本:火星は、残念ながら「のぞみ」が火星軌道に投入できなかったということで、現在日本で進んでいるものの中には入っていません。実は今、アメリカは月にもう一回人間が戻って、その後火星に行こうとしています。ヨーロッパのESAは実は月にはあまり興味がなくて火星に行きたいと言っています。それで日本が月でやろうとしている、周回して着陸してサンプルリターンすると言うことを、火星でしようという計画があります。日本がやろうとしている月の技術と火星の技術が同じなので、お互いに技術をやりくりして、あるいは観測機器をやりくりしないかという話で、ヨーロッパと今相談をしてます。それぞれ、良い部分を集めた方が人類の為にはなるということもあって、国際協力をやっています。

<地球外生命について>
参加者:夢みたいな話ですが、地球には生命がいます。他にいるとか生まれようとしているとかそういう探査や探究はどうなっていますか。
阪本:まず太陽系の中のお話からします。今、太陽系の中で注目されているのは、エウロパという木星の衛星です。木星にガリレオ衛星という4つ大きな衛星がありますが、そのうちのイオの次、2番目のところを回っている衛星で、これは表面が氷に覆われています。表面は完全に氷に覆われていますが、その下には海のようなものがあるかもしれないと言われています。木星の衛星ですから、表面温度はすごい冷たいですが、中心付近は放射性元素とか、あるいは木星の潮汐作用によって暖められています。快適とは言えないまでも、完全に死に絶えてしまうほどでもない可能性があって、世界中の研究者がエウロパという天体に着目しています。参考までに、地球は昔も今もこんな感じだったと思うと大間違いでして、地球自体もおそらくかつては地球表面が全部凍っていた時代を経験していると思っています。地球が46億年前にできあがって、38億年ぐらい前に生命ができたと思われてますが、その後、完全に地球表面が凍ってしまってもまだ生き延びたんです。それで同様に、非常に単純な生物であれば、エウロパの地下の海みたいな所にいたとしても全くおかしくないと考えています。
それから太陽系の外はどうなっているのかと考えますと、太陽系外惑星という太陽以外の星の周りに惑星があるかないかを一生懸命探していまして、現在250ぐらいの惑星が見つかっています。その中には、地球と同じぐらいの重さで、地球と同じような岩でできた惑星で、しかも温度も水が凍らない程度と言われている惑星もあります。そこに生命がいるかどうかを調べる技術はまだありません。今、ヨーロッパが中心となってダーウィンという計画をやっています。幾つかの望遠鏡を編隊飛行させて、干渉系といわれる技術を使って、地球型の惑星を探そうという計画です。それはまだだいぶ先の話で、お金もついたわけではありませんが、そういったものを使うと地球型の惑星が見えてきます。ではさらにその生命の兆候、これをバイオマーカーと言いますけれども、例えば酸素とかオゾンができあがっているとか、あるいは表面が緑とかいうことを調べようと思うと、さらにワンステップ上の装置が必要で、それはまださらに先になると思います。

<フロンティアの挑戦への意義について>
参加者:宇宙開発の方向性として、安全で豊かな社会を目指すべきという話がありましたが、そこと科学衛星などはどう関わっていくんでしょうか。
阪本:先ほどご質問の中で、グローバルなものの考え方をする人間が日本にいたほうがいいから、日本で有人宇宙探査をぜひやって欲しいというお話だったと思います。我々天文学者は、常に宇宙を見ています。宇宙を見ていて、生命が発生するのに必要な条件や、この地球がいかに微妙なバランスで保たれているかとか、そういうことをよく理解しています。やはりこういう探査機を飛ばして、調べることによって、地球が何と微妙なバランスの上で成り立っているのかということを、社会に発信できるわけです。それは直接お腹がいっぱいになりませんし、面白おかしくやれるわけでもない。宇宙飛行士がこれまでしてきたことと同様にグローバルな考えを発信していくというのが、我々の非常に大きな役割に成り得ると思っています。
樋口:これまでは日本の宇宙開発というのは、フロンティアへのチャレンジ、つまり新しい知識を増やす、あるいはそのロケットを作って宇宙へ行けるようにする、宇宙へ行って宇宙で人工衛星がちゃんと観測できるような技術を持つということを過去50年近くやってきました。そこで得られた知識と技術が、安心で安全な社会へのシステムに使われ始めました。周りをよく見てみると、もう地球の生活、我々の生活で人工衛星とかそういうものなしに生きていけないような時代がきています。これは過去50年間日本が宇宙にチャレンジしてきたから、ロケットが持てるし人工衛星を使えるわけです。ではもうそういう技術を持ったのだから、今ある技術だけでやれば良いのではないかと言うと、10年後、20年後に、今の技術、知識のまま進歩しなかったら、もっと上手に社会に役立つ、安心安全な技術のシステムができなくなります。だからJAXAはこの10年ぐらいは、50年蓄積してきた技術で社会に役立つ安全なものを使うほうに力を入れる。けれども、フロンティアの挑戦を止めたら、10年後は非常にみすぼらしい国になる。知識もない、感動もない、技術も、新しい技術も持てない国になる。ここのバランスを取っていくのが我々の責任だと思っていて、一言で言うと両方やらなきゃいけないと言うことです。

<月の資源、土地について>
参加者:もし月に資源があるとすれば、それがどのように使われるのか。それと、月の条約か宇宙の条約で、月などを保有してはならないということを聞いてますが、アメリカのデニス・ホープさんが個人で保有するのは良いだろうということで月の販売をしていて、私は第3期分譲地を1エーカ、1,200坪ちょっと買ってしまいました。それが実際良いのかどうかよくわからないんですが、どう思われるでしょうか。
樋口:資源の問題ですが、ロケットは、300トン打ち上げて、10トンしか地球の軌道を回らない。月まで行くとそれがまた半分か3分の1になってしまう。だから月まで行って、そこで得られた資源を地球に持ってきて使うというのは、今日明日ではあまり可能性がないと思います。よくヘリウム3を1トン、2トン持ち帰ってくれば、核融合で世界中のエネルギーを賄えるという話があって、時々ヘリウム3が注目されますが、さっき言った輸送の問題、それからそのヘリウム3を使う核融合そのものがまだありません。
もう一つは、月には酸素がかなりたくさんあります、二酸化ケイ素を分解すれば酸素がいっぱい作れます。あると言われている水から水素を取り出されば、ロケットのように酸素と水素を燃やして燃料にすることができます。月からさらに遠くへ行く時の燃料や、月から地球へ還る時の燃料が作れます。二酸化ケイ素はセメントの原料でもあるので、それらで月に基地を作る研究が始まっています。研究が始まっているんだけれども、地球から持ち込むより月でやった方が良いということがはっきり言えるほど、見通しが立っているわけではありません。ただその可能性はあります。
小野田:宇宙条約というのが1967年にできて、その中に「月、その他の天体は領有できない」とあります。通常、初めて行った人がここが私のものと言ったら、そこを領有することができるのが地球上の考え方だったわけですが、月その他の天体については、それぞれ領有をやめよういう話になっています。この条約は国が署名して国が主体になっていて、個人はその条約に縛られないから個人なら良いだろうという話があるのですが、例えば、日本国内に自分の家があって、なぜその家を所有しているか、土地を所有しているかというと、日本の国内法によって、不動産会社と契約したからなんです。月の土地に関して、自分の物だと言って、他人に取られそうになった時に、誰と裁判で争い、どこの国にそれを認めてもらうかという問題になってしまいます。つまり月の領土、領有権を認めてくれる国も法律もないという状態に陥ってしまっているのが現状です。

<教育衛星について>
参加者:YACの事務局をやっています。何年か前にアメリカの教育衛星で「スターシャイン」というのがあったと思うのですが、そういう子供向けに夢のあるイベントなどを考えてほしいと思いますがいかがしょうか。
樋口:打ち上げの機会については、年に2~3個ぐらいは定期的に小さな衛星が載せられるように工夫していこうと思っています。来年、「GOSAT」の時は6個ほど載せますが、こういう企画はずっと続けたいと思っています。現在、募集はしておりませんが、継続的に募集をオープンにしておいて、リストとして置いておくような仕組みを考えています。
それからYACの中では子供衛星という話が出ていると思いますが、そう言うものもサポートしたいと思っていまして、良い知恵をいただいて一緒にそういう企画を取り入れていけるようにしたいと思います。

<宇宙教育について>
参加者:中学校の教員をしているのですが、アポロが月に行った時のような単純な感動を子供たちがなかなか得られないというのが今の状況です。説明されたいろんな内容は確かに最先端で、いろいろなところに関連していて、高校生から大学生ぐらいになったらそういうものの重さがわかると思うのですが、なかなかそこまでいかない。それが今の理工離れにもつながっていると思います。ですから子供たちが単純に参加して、その中で自分たちがやったことが面白かったとか、何か宇宙とつながっているということが実感できるようなことが、もっと求められている。当然それが本当に夢というか、面白いだけで終わる子も出てくれば、専門家が育っていくこともあるかもしれません。是非もうちょっと子供たちを引き付けられ、体験できるようなアイデアを考えていただきたいと思っています。
樋口:JAXAは大学院教育をやっています。それからYACのようなところもサポートしています。JAXA自身も小学校、中学校の教育に、我々の成果なり材料をもっと使ってもらおうというので、宇宙教育センターというものを作ってます。そこは先生方とお付き合いさせていただいて、先生が自分の教室に戻った時に、子供たちにその教材をお話していただけるようなアプローチを取っております。宇宙教育センターとコンタクトしていただいて、教材や教育の時に役立つような情報、あるいはそこへの注文を出していただければ、先生方が生徒の指導にお付き合いいただくためのいろんな手立てが準備できると思います。あるいは先生方のための講習会みたいなものもやっております。

<授業で使える宇宙教育の話題について>
参加者:小学5年生ぐらいの子供たちが、へぇーとかびっくりしたりするみたいな感じの話題がありましたら、教えていただけますでしょうか。
阪本:アポロは本当に月に行ったのですかという質問を受けることがよくあります。それはまさに地球の常識を月にあてはめようとしているからです。例えば、アポロが月に行っていないと主張する人の一つの理由は、着陸船が着陸するときにロケットを噴射すると、着陸する辺りの砂みたいなものを全部吹き飛ばしちゃいそうな気がしますが、アームストロング船長が月に降りると、そこにフワッーと砂が昇ったりするわけです。そうすると本当だったら砂なんか吹き飛んじゃってるはずなのにあったじゃないかと言うのですが、真空だとロケットの当たっている所は影響を受けますが、空気がないので周りは何の影響も受けず、周りの砂はそのまま残っていたりするわけです。月の砂はすごくサラサラのパウダーなのですが、舞い上がってそのままどこかに飛んで行っちゃうかというと、真空なので放物線を描いてポトンと落ちるわけです。それからアポロが撮った写真で空が真っ暗なのに星が全然写っていないのは地球のスタジオだからという話があるのですが、夜空がいくら暗いように見えても月の昼間だからなのです。昼間なので地面はものすごい明るいです。そこにシャッタースピードを合わせているので、暗い星は写らないのです。それもやはり空が暗ければ夜で星空が写るだろうと地球の常識で考えているからです。それから、「かぐや」で地球の出をハイビジョンで写すという話をしていますが、あれは「かぐや」が月を周回しているから写せることであって、月に着陸して地球を見ると、地球は動きません。月は地球に対してずっと同じ面を向けていますから、地球は昇らず常に同じ方向にあります。それから月の地軸というのは傾いてません。地球は23.4度傾いているので四季がありますが、月の場合はそれがありません。月の北極や南極では太陽が月平線を舐めるように這っていくという世界なんです。だから北極や南極にちょっと小高い所があると、そこのてっぺんは常に日が当たるし、ちょっとへこんだ所があると、そこは常に日陰になっています。そういう窪地の所にひょっとしたら氷がある可能性があると言われています。